10.23.2022

[film] The Justice of Bunny King (2021)

10月9日、日曜日の昼、”Tre piano” (2021)に続けてヒューマントラストの有楽町で見ました。
邦題は『ドライビング・バニー』。ニュージーランド映画で、監督はこれが長篇デビューとなるGaysorn Thavat。

車で混雑している交差点で車のフロントガラスを拭いて小銭を稼いでいるBunny King (Essie Davis)がいて、きびきび愛想よく働いて、そんな大きな稼ぎにはならないけど稼いだお金を大切に瓶に入れてクローゼットにしまって着替えるときにブラのワイヤが飛び出ていて痛いことに気づくのだが、新しいのを買うお金もなさそう。姉の家の隅に居候させて貰ってひとりでそういうことをしている日々の描写を通して、なんでBunnyがそんなことになってしまったのか、の過去などが明らかになっていく。

Bunnyには里子に出されて彼女との面会を制限されている子供たち - 少しずつ大人の事情をわかりはじめている男の子Ruben (Angus Stevens) とまだ幼くてママが大好きでたまらないShannon (Amelie Baynes) - がいて、彼らと一緒に暮らせるようになるためには安定した収入とちゃんとした自分の住処があることが条件で、それらを手にする日を夢みてああして日銭を稼いで、姉の夫のBevan (Erroll Shand)の好意に甘えて家の片隅で寝る日々を送っているのだった。

でもそんなBunnyと子供たちを見てきた保護観察局の職員はBunnyの懸命の努力は認めながらも当分の間は一緒にさせることは難しいかも、って見ているよう、だけどBunnyの生きる望みはそこにしかないので負けない。そんなある日、Beavanが姉の連れ子のTonya (Thomasin McKenzie)に車のなかでやらしく迫っているのを見てしまい、ぶち切れてTonyaを手をひいてBeavanの車をかっさらって..

なんでBunnyがあんなにブチ切れたのか、そもそもなんで彼女は保護観察下にあるのか、彼女が子供たちを虐待していた夫を殺してしまったから、というのがわかると、あー、ってなって、ルールを破って子供たちに(監察官立会なしで)直接会いにいってしまったり、追い詰められて減点まみれになった彼女が子供たちと一緒に暮らすのは無理としても(ずっと約束していた)Shannonの誕生日だけはせめて..

こうして最後の賭け、ソーシャルワーカーの事務所に向かって応対してくれた職員(Tanea Heke - よい人)を人質にとって立てこもり、子供たちをここに連れてこい! って要求してTonyaと人質とでオフィス内に娘の誕生日の飾り付けを始めるの。みんな黙って静かに…

Bunny、あんたやりすぎ、めちゃくちゃだよ、って誰もが言うに違いないけど、家も子供も名誉も奪われて社会のどん底に落とされた「母」であるBunnyにできることってあと何が残されているというのか? 真面目におとなしく働いてがんばればどうにかなる話だと思う? Beavanとか前夫とか虐待する側は野放しのやりたい放題なのに? これがBunnyにとってのぎりぎりの選択で”The Justice”で、その切実さははっきりと伝わってくるし監督が描きたかったのもその辺りなのだろう、って思った。

救いの部分もほんの少しは描かれて、家を出た彼女をガラス拭き仲間の家族みんなが歓待してステイさせてくれたり、ソーシャルワーカーの人もがんばってアドバイスをくれる、けどそれはBunnyのドライブに応えるような形 - ニッポンでいう自助の延長 - でしかなくて、明日の保証も安定も、そんなのどこにもありやしないという絶望が。

これを”The Babadook” (2014)で命懸けで坊やを守ろうとしたEssie Davisと、”Leave No Trace” (2018)でしがらみFreeになるにつれて輝きが増していくThomasin McKenzieが真ん中で演じているのだから、なんだか拳を握ってしまう - 割と隙だらけのところも含めて。ひとつあるとしたら、叔母と姪の”絆”という程には強くはない、けどやっぱり互いに好きなので信頼しあっているふたり、をもう少し前に出してくれたら、かなあ。

あと、ラストはBunnyをもうちょっとかっこよく見せてあげてもよかったのではないか。

英国のKen Loachが主に男の目線で描いてきた這いあがれないどん底で、それでも生きる彼ら(男)、とはちょっと違う、前科者のシングルマザーはどうやって生きろっていうのか、っていう悲鳴に近い嘆きがそこにはあって、見られるべきだと思った。

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