10.05.2022

[film] Passion (1982)

9月25日、日曜日の午後、映画館Strangerのゴダール80/90年代セレクションで見ました。
どうでもいいけど、「Passion 映画」でぐぐると、濱口竜介の『PASSION』がまずくるのね。

『勝手に逃げろ/人生』(1980)に続く、ゴダールの商業映画復帰第二弾。最初に見たのは日本公開時のシネヴィヴァン六本木で、この時点で見ていたゴダール作品というと『気狂いピエロ』くらい – 確か自由が丘で見た – で、あれは変なの.. 程度の感想しかなかったのだが、こちらは震えるくらいにびっくりした。 なにこのかっこいいのは! って震えた。ゴダールで戦慄した最初の1本。 撮影はRaoul Coutard。音響にはFrançois Musy。

冒頭の上に向かって線を描いて伸びていく飛行機雲にラヴェルの『左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調』が被さっていくとこ、これだけでおおー、ってなる。ロンドンに暮らしてみてなにが素敵だったってああいう雲とか光をいくらでも見ることができることだったの。

スイスの湖のほとりの村に近い町にポーランド人の監督Jerzy (Jerzy Radziwilowicz)がやかましいプロデューサーLászló (László Szabó)と言い合いながらTV用のフィルムシリーズで活人画(tableaux vivants)を制作していく(でもうまくいかない)のと、そのJerzyの恋人で工場を解雇されたIsabelle (Isabelle Huppert)が工場主のMichel (Michel Piccoli)相手に抗議行動を起こしていくのと、制作スタッフが滞在するホテルのオーナーで工場主の妻のHanna (Hanna Schygulla)がJerzyと近くなっていくのと。 そんな4人の仕事と愛をめぐる四角関係が古典絵画の再構築の試行錯誤 - シリーズのタイトルが”Passion” – のなかで火花を散らして、そこに彼方からポーランドの連帯と戒厳令が聞こえてきて..

制作の現場で再構成されようとしている名画は、レンブラントの『夜警』とかゴヤとかアングルとかドラクロアとか、誰もが知っているような古典ので、これは現代社会のあれこれからすれば、隔絶されたひとつの世界とその像を形成している - そうやって対照される、例えば、絵画のなかに射す光と工場や周囲の山の中にある光、絵画で描かれた女性の形象と現場で浮かびあがらせようとする女性のヌード - 絵画のなかのモティーフとIsabelleやHannaの像が微かに重なっていったり、そしてなによりも「現場」がさらけ出してしまうongoingの現場感と、画家のアトリエの密室感との、そもそものギャップ等。『勝手に逃げろ/人生』における「地獄」の反対側に置かれているかのように永遠に静止している絵画の世界と。

『勝手に逃げろ/人生』との対比でいうと、はっきりと主人公Paul Godardから勝手に逃げたり散ったりしようとしていた女性たち、に比べるとこちらはまだ少しだけ愛したり見つめたり歩み寄ろうとしている – でもまだ後ろ向きで – かのような。それでもそれは(絵画の世界との対比においてなのか)”Passion” – 「受難」と呼ばれてしまうのだが。

絵画作品 – 特に主に西欧絵画 - への言及や参照はゴダールの映画のなかで常にあったもので、それは色彩であったり光であったり常に自分の作っている(いま作っている)映画との対比のなかで(or もっと大きな対象のとらえ方のようなところで)語られてきた気がするのだが、この作品ではもっとストレートに絵画作品のなかに入ってなにかを捕まえようとして、それはうまくいっているようで(悪くないし完成形が見たい - Myriem Rousselが出ているところとか)、でもここを通過して、やはり映画と絵画とは違うものだ、ということがよりはっきりしたのではないか。(この後のゴダールのデジタルへの寄り方を見ていると、なんとなく)

大好きなシーンでいうと、Isabelleが木の枝に片腕をひっかけてゆらーんてしているとこ。ここと冒頭の雲だけでー。 あとHanna、かっこよすぎてやや浮いてる。

『勝手に逃げろ/人生』のPaul Godardは車に轢かれて、今作のJerzy (JLG)は革命に身を投じるべく彼方に消えて、お前ら生ぬるいわ、って監督本人がゴダール本人のように登場して散逸していた光を束ねてライブ・ミュージックで固めたのがこのしばらく後の『右側に気をつけろ』(1987)で、最後に『ひとつの場所を Une place 地上に sur la terre』って、シンプルなところに落ちるの。『右側に..』も大好きなのだが今回の特集ではもう見ている時間がない…

もう始まっているNYFFの会場では、7日まで、ゴダール追悼で”The Image Book” (2018)をタダでループで流して続けているって、いいな。(『映画史』でもよかったのにな)

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