10.01.2022

[film] Babi Yar. Context (2021)

9月24日、土曜日の昼、イメージフォーラムで見ました。初日の初回だったせいか満員だった。邦題は『バビ・ヤール』。

監督のSergey Loznitsaのドキュメンタリーはこないだまで上映していた『ドンバス』(2018)も『国葬』(2019)も見たかったのだが、とても重そうだし時間も取れなかったので、配信でなんとかして見たい。

監督がカメラを回しているわけではなく、制作チームがドイツ側、ロシア側から掘りおこしてきた当時のアーカイブ映像を全編で使用して繋いで作ったもの(音声のみ後付け)。

1941年9月29日と30日(81年前の今日か..)の2日間で、キエフに住む33,771名のユダヤ人が一箇所 - Babi Yarはその土地(”Babi”は窪地、”Yar”は女性の俗称だそう)の名前 - に集められ、一編に射殺された『バビ・ヤール大虐殺』を扱ったもの。ナレーションはなく、日付のついた簡単な事実の説明、通達などの文書、映像の中で語られる言葉、そしてアーカイブ映像が映し出されるのみ。

虐殺の事実関係や時系列を追う、それがどういう組織集団や人々の間でどのようにして起こったのかを掘り下げる、というだけでなく、タイトルに”Context”とあるように、これが起こる前からあって、現代にも続いていて、今もそこに(ひょっとしたらここにも)あるかもしれない”Context” - 文脈 - を見ようとする。 当たり前のことかもだけど、その視座に立っていろいろ置いてみて初めて、今のウクライナ「問題」にも繋がるなにか、として見えてくるものもあるはず。 アウシュビッツだって原爆だって慰安婦問題だってそうやって見る(べき)。もちろん、”Context”それ自体が「事実」の集積と歴史分析のなかで形成されていくものなのでその恣意性については注意する必要があるが、この作品に関しては”Context”的な - 今に連なるなにかは十分抽出されているように思われた。だから過去の映像や資料を破棄してはいけないの。

最初に街が爆撃されて燃えたり崩れたりしている映像。1941年6月、ナチス・ドイツ軍が独ソ不可侵条約を破棄してソ連に侵攻してウクライナ ~ キエフを占領する。同年9月、キエフの街で更に大規模な爆発と破壊があって、これはソ連側が撤退前に仕掛けたのだが、そこに現地のユダヤ人たちが関与したような証拠を意図的に残して、それを見たドイツ側はキエフに暮らす全ユダヤ人 - 大人も子供も老人もぜんぶ - の出頭を命じる。「貴重品を持参するように」という指示つきで。

ドイツに侵攻されたキエフ側は軍に花束を渡したり友好印たっぷりだし、その次にソ連側が反撃に出るとそちらの方にも声援を贈ったり、おそらくそれぞれの軍の視点からの記録映像なのだろうし、ああやって右から左から戦車で来られて建物を壊されている状態で抵抗してもしょうがないのだろうけど、そんなどちらを向いても権力と暴力やり放題の不条理としか言いようのない事態が続くところで、なにかがなにかを押しだすように想像もつかない規模の大虐殺があっさりと実行されてしまう。「あっさり」と見えてしまうのは、記録としてきちんとして残されていなかったり、残そうとする積極的な姿勢も罪や犯罪や殺された人々に対する意識も希薄だったから(としか言いようがない)。

最後の方に出てくる虐殺の現場にいて、死体の海に埋もれながら生き残った女性の証言なんて凄まじくて、それに続いて大群衆に囲まれるなかで処刑されるナチス高官たちの姿は “Voskhozhdeniye” (1977) - 『処刑の丘』での同シーンとそっくりだったりする、その恐ろしく無意味で空っぽなかんじ - 軍幹部を処刑したところで何も変わらないような - ときたら。

そして虐殺の現場となったバビ・ヤールはソ連当局によって、何事も起こらなかったかのようにきれいに埋め立てられてしまう。(保護と継承は、本作にも関わっているThe Babyn Yar Holocaust Memorial Centerが行っているようだが)

この時のこういう態度 - 「やろうと思えばどうとでもすることができるのだ」という権力者側の領土や民族に対する傲慢さ、国や領土に対する意識のありようなどは、今の、ここ数日のウクライナ情勢にもふつーに露呈しているし、うちの国のお粗末「国葬」のそれだってもろだし、要はものすごくみっともなく恥ずかしい田舎じじいのロジック(というより思いあがり)なのだが、取り巻きも含めたあの連中にどうしたら、というのはいつも思う。痛覚とか、なさそうだし。

ここから数十年が過ぎて、今作と同じようにアーカイブ映像で日本のこの十年を追ってみようとした時、先週の「国葬」がどれだけださくて恥ずかしいものだったか、思い知るのだわ。映像が消されていなければ。

もう10月だってさ...

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