10.30.2022

[film] Larger Than Life: The Kevyn Aucoin Story (2017)

10月15日、土曜日の午後、新宿武蔵野館で見ました。『国道20号線』の直後で世界の段差に少しくらくらした。『メイクアップ・アーティスト:ケヴィン・オークイン・ストーリー』

2017年のドキュメンタリーをなんで今頃? というのはあるがKevyn Aucoinの名前で見る。90年代のルックを作ったメイクアップ・アーティスト、メイクアップをアートの領域に持っていった人。

ルイジアナのラファイエットで養子として育てられ、早くから自分をゲイとして自覚して、学校ではその辺を理由に虐めにあってドロップアウトし、姉と一緒に遊びで楽しんでいたメイクアップをほぼ独学でマスターして、顔を光を使って彫刻のように見せるその造形技術と美学でスーパーモデルの時代を裏で引っ張り、写真集もいくつかだして、2002年に亡くなった。顔をつくる、ということがファッションの、ビジュアルの領域でどれだけ大きなパワーを持ちうるものなのか、ひとつの価値基準とかスタンダードを作ったひと。それぞれのブランドの意匠、それぞれのモデルのスタイルを貫いて、かっこよく美しいビジュアルってこういうもん、っていうのを人の頭部を起点として改めて定義しようとした。もちろんそこには優れた写真家もいたしHouse of Styleだってあったわけだが、でもKevynの功績ははっきりとある。

などなどを思いつつ、メイクアップにおける例えば「ナチュラル」の扱いが、すっぴんとか「変じゃない」かんじのと、LGBTQIのありようを表すものに二分化していっている気がして、それらを受けてフォトショップどころかAIも加えた補正矯正が当たり前になってきている顔の表象を巡るこんにちの状況を前にすると、眉をぜんぶ抜いてもその人にとっての美を追求しようとしたKevynて偉かったよなー、って。

というのとは別に、90年代のNYのファッションあれこれが懐かしくて。Isaac Mizrahiがいて、Todd Oldhamがいて、Cynthia Rowleyがいた、彼らのオフィスやブティックがあった頃のSOHOにはまだ本屋もレコ屋も怪しげな雑貨屋もあって楽しかったなー、00年代になってChanelとFerragamoが来てから、ぜんぶ変わっちゃったよねえー、などと懐かしんだのだった。


Creation Stories (2021)

10月27日、木曜日の夕方、シネマカリテで見ました。『クリエイション・ストーリーズ ~ 世界の音楽シーンを塗り替えた男』。 これも自分の中では懐古カテゴリなので。

まだ英国にいた頃、これは何度かTVで放映されてて横目でてきとーに眺めていたらTelevision Personalitiesえらい! ってやってて、それは間違いなく揺るがぬ史実なので見たほうがよいのかも、とか思っているうちに消えて見ないままになっていたのをようやく見る。

Alan McGeeの評伝を中心にしたCreation Recordsの成功物語で、Irvine Welshが脚本にいたりDanny Boyleが制作にいたり、Brexitがぼろかすで経済も文化もぜんぜんいけてない風になってきた最近の英国どうしたがんばれ、っていうものにしたかったのかも。

わたしはできた頃のFactoryとRough TradeとCherry Redで育てられてきたので、Creationていうのは音楽を諦めた田舎者が立ち上げたださいベンチャーで、Alan McGeeは単なる成金ビジネス野郎としか見ていない。確かにこのレーベルの成功がマーケットとしての「英国音楽」を確立してくれたのかも知れんが、ジザメリもプライマルも、当時の騒がれ方からしてぜーんぜん乗れない、なにが新しくて画期的なのかちっともわかんないやつ(個人の感想ね)で、この辺から英国の音楽への興味を急速に失っていった。OASISについても同様で、映画にも出てくるようにブリット復興に向けて仕掛けられたなんかだったのでは、くらいのことを思ったりする。(The Stone Rosesの方が現象としてはすごかった気もするのに映画の中では完全に無視、とか)

映画を見ると、Alan McGee自身の生い立ちや家庭などからそういうことだったのね、というのがわかったりするものの、それがどーした? でしかなくて、あのレーベルで本当に聴くに値したの(という言い方はよくないね)ってMy Bloody ValentineとRideくらいじゃないか、とか。(そもそも時代だのシーンだのを作ったり塗り替えたりする音とか男とかまったく信用していないし)

もちろんこんなの個人的なアレとして、100人100通りの見解があってよくて、そういう糞玉を投げ合う丁度よいネタとして、一晩でも二晩でも語りあってほしいな(って言いながら自分は逃げる)。

こういうお勉強というより懐古に近いネタのって、年寄りぽいので割と避けてきたのだが、実際に年寄りになってしまったので好きにやっていいや、と思うことにした。

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