9月29日、木曜日の晩、シネマカリテのクロード・ミレール特集で見ました。
邦題は『伴奏者』、英語題は”The Accompanist”。原作はロシアに生まれて西ヨーロッパを経由して1950年にアメリカに移住したNina Berberovaの同名小説 (1935)、脚色はLuc BéraudとClaude Miller。
ナチスドイツの占領下にあった40年代のパリ、ステージでスポットライトを浴びてソロで歌って輝いているIrène Brice (Yelena Safonova)を見つめるSophie (Romane Bohringer) がいて、その後にSophieはIrèneの伴奏者となるべく会いにいって弾いてみて、採用される。
どこに行っても人を惹きつけるオーラと笑顔と歌声を放つIrèneとは対照的に客には背を向け、彼女の歌声に寄り添って音楽に集中し、ステージ上で彼女の歌の魅力を最大限に引き出すことがSophieの使命で、Irèneが夫や周囲の人たちに注ぐ目線と彼女に対するそれは明らかに違う(どちらかというと家政婦に対するそれ)のだが、音楽の伴奏については信頼してくれるので、それでいいか、くらいで、母と暮らしていたアパートを出て、Irèneの邸宅に越して、伴奏だけでなく身の回りの世話もしていくようになる。
Irèneの夫のCharles (Richard Bohringer)はヴィシー政権に近いドイツ関係者と商売をしているので生活には困らないものの世間の目に曝されてぶち切れたりしてて、Irèneには夫以外の恋人がいることもSophieは知ってしまうのだが、もちろん誰に言うこともない。戦争が来ようが家が荒れようがIrèneの歌に寄り添って弾いていくだけ。
戦局が厳しくなればなるほどドイツ寄りフランス人に対する風当たりは増して、商売への影響も出てきたのでCharlesとIrèneとSophieはポルトガル経由で英国に渡ることにするのだが、英国側の入管でCharlesとIrèneは対独協力者として拘束されて、英語もできないSophieは取り残されてどうしよう、になったところで拘束直前にIrèneのかけた1本の電話(たぶんパリで会っていたIrèneの彼への)であっさり釈放されて、3人はロンドンに向かって、新たな生活を始めて…
戦時下のドラマ、というのもあるが、戦時の波にもまれていく(本来であれば)ヒロイン(Irène)、の方ではなく、「伴奏者」として彼女のレールに並走していくことを選んだ女性の成長と目覚めを描く、というか。 もうひとつは、SophieがIrèneを見つめ、IrèneがSophieを見つめ返す、そこに愛はあったのかなかったのか、それは「伴奏」によって満たされるなにかだったのだろうか?
“L'effrontée” (1985) - 『なまいきシャルロット』で主人公のCharlotteが少女ピアニストClara Baumanに憧れて彼女についていきたい! と思うようになるのと同様の少女ドラマ、のようでいて、こちらのSophieはCharlotteよりもずっと静かで、自分の考えや思いを外に出そう、自分を彼女の目線に絡ませよう、とする意思は(ラストを除けば)なくて、それって時代とか自分の仕事をもつ前と後、の違いによるものなのかというとそれだけではなくて、Sophieは自分は伴奏者 - 歌曲の伴奏をすることが使命 - で、伴奏というのは楽譜と歌手(歌唱)の間に立って、双方からのインストラクションや制約の間をぬって渡っていくものなので、そういうところに縛られて生きる人なのだ、という内側の厳格な掟と、そのありようが戦時下のドイツとフランス、Irèneの夫と恋人、の対立の構図によってさらに複雑な縛りや絡みをもたらすようになり、全てを振りほどくかのようにいいかげんにしなさいよあんた!(Sophieの内の声)になってしまう様が描かれている。
前半の伴奏者として仕事を始めた頃のSophieの歓びが、Irèneの恋人 - 彼の目を見たこと、彼女の夫との距離を知ってしまったこと、自分もすれ違った男性に言い寄られたこと、などによって微妙に変化し、それでも「伴奏者」としてあることで何かを保とうとする、劇中、殆ど何かを吐きだそうとしない彼女は内側に何を抱えこんでいたのか。そしてラストの、船で出会った彼との再会した後の表情 ー 。
主演がCharlotte GainsbourgではなくRomane Bohringerだったのは、これでよかったのかも。
あと、Irèneの家にいたすごくかわいい猫はどうなったのか、誰か教えてほしい。
10.07.2022
[film] L'accompagnatrice (1992)
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