10月9日、日曜日の午前、ヒューマントラストシネマ有楽町で見ました。
英語題は”Three Floors” - 邦題は『三つの鍵』 - 話の内容からすると鍵って四つなんじゃないの? と思っていたら英語題で理解した。
イスラエルのEshkol Nevoのベストセラー小説”Shalosh Qomot” - Three Floors Up - (2017)をベースにして舞台をテルアビブからローマに移したもの。 監督のNanni Morettiにとって、自分のではない作品を原作として取りあげるのは初めてだという。
冒頭、夜中にアパートの上の方の部屋に明かりが灯り、荷物を抱えてしんどそうな妊婦のMonica (Alba Rohrwacher)が降りてきて、(おそらく病院に向かう)タクシーを捕まえようとやってきた車に手を挙げたら、その車が突然暴走して少し先に立っていた女性を轢いた後、アパートのガレージに突っこんで止まる。
車を運転していたのは若いAndrea (Alessandro Sperdute)で、明らかに酒に酔っていて、そのアパートに暮らす彼の父で裁判官のVittorio (Nanni Moretti)と母Dora (Margherita Buy)は、反省もせずに親のコネでなんとか刑を軽くしてもらおうとするAndreaに冷たく罪 - 轢かれた女性は亡くなった - を受けるようにするのだが、Doraだけはちょっと複雑な顔をしている。
Andreaの車がアパートに突っこんできた時、間一髪で事故を免れた – でも主人の仕事場はぐじゃぐじゃになってしまった一家 - Lucio (Riccardo Scamarcio)とSara (Elena Lietti)の夫婦は娘のベビーシッターが捕まらないことも多いので、隣の部屋に暮らすRenato (Paolo Graziosi)とGiovanna (Anna Bonauito)の老夫婦に彼女を預けたりしているのだが、ここのところやや痴呆が進んでいるように見えるRenatoの挙動がやや気にかかる。
冒頭に出てきたMonicaは無事出産はできたものの、夫は長期出張で不在なのでたったひとりで産後鬱になってしんどくて、義兄が出産祝いを持ってきてくれたりするものの、彼は投資関係の詐欺で訴えられたりして逃げたりしているので、夫からはあいつとは絶対に会うな、と言われたりしていて..
それとか、ある夕方にRenatoと彼に預けていたLucioの娘が行方不明になり、理由はRenatoが道に迷ったからだったのだが、発見された公園で娘になにかあった/されたのではないか、とLucioは疑念の塊になって入院中のRenatoを厳しく問い詰める(けど彼は思いだすことができない)のと、Renatoの孫娘Charlotte (Denise Tantucci)がパリから戻ってきて以前からずっと憧れていたというLucioに迫って関係を持ってしまうお話 – LucioはRenatoの病院に向かって娘のことで問い詰めて騒ぎを起こすが、彼はCharlotteの方からレイプの訴訟を起こされてしまって散々になったりの。
5年~10年くらいのスパンで3つのフロアに暮らしていた家族が、ひとつの事故から、というよりその前からあった小さな問題や痛みを表に出したり抱えたり結んだり開いたりをしつつ、ばらばらに壊れそうになりつつ、でもかろうじて保ったりなんとかして生きて(死んで)いくさまを重層的 – ではない、軽めの絡みあい、編み物を編むようにして描いている。ぶっといストーリーやイベントの力や過酷な時の流れなどでぐいぐい押して引いて巻きこむ、というより、ひとつの建物に暮らすそれぞれの家族に必ずやってくる死とか別れとか老いとか引っ越しとか、ドラマの節目に起こりそうないろんな点とか結び目とかを繋いで、でも簡単に共感とか感動の方には持ち込まずにああそうなるのかー/なるかもなー、に持っていくところが絶妙にうまい。ぜんぜんだれずに最後まで一気に見ることができる。余韻があまりなくてあっさり味なのは賛否あるところかも。
エピソードとしては、夫Vittorioが亡くなった後、ひとりになったDoraが家に寄りつかなくなったAndreaを探して、いまは家族と山奥に越して養蜂をしているらしい彼のところを訪ねていく話がなんかよかった。反省はしないし変われないかもしれないけど、赦すことはできる、できた - のだろうか? – 時間が経てば? - とか。
エピソードの重ね方とか隣り合わせる手つきとか、なんとなくタヴィアーニ兄弟の”Kaos” - 『カオス・シチリア物語』(1984) を思い出したり。また見たいな。
10.21.2022
[film] Tre piani (2021)
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