11.21.2021

[film] Respect (2021)

11月13日、土曜日の朝、Tohoシネマズの日比谷で見ました。

なんの説明もいらないAretha Franklin (Jennifer Hudson)の評伝ドラマで、わたしにとってArethaはJBやMJやPrinceよりも遥かに高位の、かつてライブを3回みて泣いて平伏して、Eternalsの世界だったらCelestialsにあたる偉いお方なのですぐにでも見るべきやつだったのだが、アメリカやイギリスのレビューを読んで - ま、そうだろうなと思った - で、145分の上映時間を見てうーむ、と固まっていた。

50年代のデトロイトで、父親のC. L. Franklin (Forest Whitaker)がまだ寝ているAretha (Skye Dakota Turner)を起こして大人たちのパーティの席に連れ出して歌わせるという冒頭のシーン、そしてこれと同じようなパーティの晩に部屋にいた彼女に性的虐待が為された(ことが示唆される)、これら最初の方でおおよその骨格が提示されている。 父親からの抑圧、大勢の前で歌うことの強制、父親以外の男性からの虐待。そしてそれでも彼女は歌った、と。

映画はColumbiaとの契約を経て、父親から逃げるようにTed White (Marlon Wayans)と2度目の結婚をして(最初の結婚については触れられない)、Jerry Wexler (Marc Maron)のAtlanticに契約を変えて、アラバマのMuscle Shoals - FAME Studioでのレコーディングでブレークして、ブレークした後はごたごたが続いてぼろぼろになり、こないだのドキュメンタリー”Amazing Grace” (1972)で改めて神と音楽に向き合うあたりまでを描く。

今作が映画監督デビューとなるLiesl Tommyがそれまでブロードウェイで長く仕事をしてきたこと、主演のJennifer Hudsonが生前のArethaからのご指名だったことなどを見れば、これは本来ブロードウェイでミュージカルのような形で上演されるべきだったものかも知れず、見てみるとやはりそっちだったかも、と思わせる、クリーンで感動的なサクセスストーリーの典型のようになっていて、それでもよいけど、それをそのまま映画でやるのか、という不満がやや残る。

Arethaはとんでもなく偉大ですごくて破天荒なひとで、でもその「破天荒」は男性のアーティストであればポジティブに(豪快だねえ、とか)捉えられることの真逆のが全部あり、怪物のような父親を含む男性(性)からの虐待や差別や暴力をそのままサンドバッグのように受けとめて、それでも/それゆえにあんなふうに歌った、歌って神に届こうとしたその強さと破壊力と崇高さは、それをきちんと描くのであれば彼女が男性から受けた暴力のすべて - アメリカ社会のそれも含めた複雑さ、陰湿さ - を精緻に曝け出す必要があったのではないか。その地点にきて初めて”Respect”や”Think”の真のパワーは炸裂するのではないか。

これに対して、いや、そこまでのことをしなくても彼女の歌とソウルは十分にすばらしいし力強く伝わるのだからいいじゃないか、というのがこの映画の拠って立つところで、レビューでの賛否はこの点に集約されているかのように見えた。

べつによいのかも、って思えてしまったのはFAME StudiosでのMuscle Shoals Rhythm Sectionとの最初のセッションとレコーディングのシーンが出てきてからで、ここだけでもあと30回は繰り返し見たい。Rick HallやSpooner OldhamやRoger HawkinsやTom Dowdがいて、彼らとのセッション - セッションていうのはこういうやつ - を通して”I Never Loved a Man (The Way I Love You)”がどんなふうに形作られていったのか。深夜に妹たちとはしゃいで歌いながら”Respect”を作っていくシーンと並んで、これがあるから絶対に見たほうがいいよ、になる典型的なやつ。

Jennifer Hudsonの見事さ力強さは申し分なくて、でも彼女がすばらしければすばらしい程、Arethaのカヴァー・パフォーマンスになってしまうといういつものー。だから最後に晩年の本人がKennedy Centerでのライブで"(You Make Me Feel Like) A Natural Woman"を歌うところはなるほど、だった。彼女が最後に投げたあの毛皮については既にいろんなところで語られているとおり。

でもやっぱりAtlanticでの最初の4枚は聴いてほしいし、ライブ盤は”Amazing Grace” (1972)だけじゃなく”Aretha Live at Fillmore West” (1971)も聴いてほしいし、”The Blues Brothers” (1980)は見てほしいし -  そういえばこの映画でのArethaって- 彼女だけでなくCarrie FisherもシスターMaryも、悪役のような描かれ方をしているのだが、いま冷静になって見てみると、彼女たちはみんなブラザー的な男性社会の被害者なのよね。


週末がものすごい速さでどこかに消えてしまうのはなんなのか。なんにもできやしない。ここ数十年ずっとだけど。

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