11.19.2021

[film] Ras vkhedavt, rodesac cas vukurebt? (2021)

11月10日、月曜日の晩、結局足を運ぶことのなかった東京フィルメックスのオンラインで見ました。

邦題は『見上げた空に何が見える?』、英語題は“What Do We See When We Look at the Sky?” - USでは劇場公開もされている。ふつうに劇場公開されておかしくないし劇場で見上げるようにして見たいジョージアの映画。

監督・脚本のAleksandre Koberidzeにとっては2作目の長編フィクション。物語をすっとぼけたかんじでドライブしていくナレーションも彼自身がやっていて、音楽は彼の兄 - Giorgi Koberidzeが担当している。

ジョージアの西部の、中心を素敵な川が流れているクタイシの街で、冒頭は学校のまわりで、学生たちが下校しているところ、鳥や犬も含めてやや騒がしい雑踏で男女がすれ違ってぶつかって(?)本を落として拾いあげて離れて戻ってきて短い会話をするシーン。映されるのはふたりの下半身のみ。ここで小鳥や犬が空を見上げたらその時のふたりがどんなだったか見えたはずー。

こんなふうに出会ったLisa (Oliko Barbakadze)とGiorgi (Giorgi Ambroladze)は、その晩に再びすれ違って、これはなにかの縁だと思うのでちゃんとカフェで会おう、って翌日の晩8時に会う約束をするのだが、その前の晩にふたりにかけられた呪い - 誰の、なにによるものかは明らかにされないけど、風とか監視カメラとか雨どいの警告にも関わらず吹いてきたなにか - によって、翌朝に目覚めたふたりの容姿はまったく別のふたり - Lisa2 (Ani Karseladze)とGiorgi2 (Giorgi Bochorishvili)に変わってしまい、さらにひどいことに薬剤師だったLisaの知識も、サッカー選手だったGiorgiのスキルも失われてしまったので、Lisaはカフェでアイスクリームを売ったり、Georgiは道端で怪しげな客寄せバイトを始めることになる。当然互いの顔を認識できないふたりの出会いが起こることもない。

こうなったところで想定されるであろう呪いの根源を探るドタバタした追及や医者だ祈祷師だ、の方には向かわずに、Lisaのルームメイトはそれをふつうに受け容れるし、LisaもGeorgiも嘆き悲しんだりせずに淡々と生活を送っていく。なぜなら他にすることもできることもないから。この設定にのれない人はなんだこれ、になってしまうのだろうが、カメラはそういう事態になったふたりと街の様子を丁寧に追っていく。

ワールドカップが近いのでカフェや飲食店は観戦用のスクリーンを外にだして人間だけでなく犬までもが贔屓のチームと店に向かっていく熱狂とか、いつでもどこでも朗らかな子供たちとか、それらを追っていくうちにふたりに起こったことなんてふつうに起こることなのでは? って。

カフカの虫ほどではないにしても、今朝起きた自分だって、なにかの変容の成れの果てかも知れず、確かに知恵も知識も失われ続けていることは確かだし、そんなの騒いだってしょうがないことも自覚しているし、そうやって出会いの機会も奪われ続けているのかもしれない。というような村上春樹的な「やれやれ」の諦めの物語が一方にあり、他方にはそういった「呪い」を受けとめてきた歴史や川の流れのように残酷に押し流そうとする力がある。

それはサッカーのゲームのような勝ち負けのみが支配する、ビールを飲んで応援する以外にどうすることもできないなにかなのだろうか? となったときにひとは空を見上げて何かをみようとするよね - なにを? というのがタイトルで、それを足下を見て政治とか経済とか革命とかについて考えこんでしまう手前で、動き回って止まない子供たちや犬や鳥がぴょんぴょこやってくる、その軽やかさ。

それってへたしたらなんでもありのずるずるの世界になっちゃったりしないか? あるいはボディ・スナッチャーみたいなホラー(含. 犬)とか、っていう意地悪な声を蹴散らして、決着のおとしどころまで含めてとっても瑞々しい街と公園と川と犬と人のエッセイになっていると思った。

そういう世界に、Rom-comのように展開すると見せかけて最初と最後以外はメインのふたりがほぼ交わらない、碌な会話すら交わさせないまま置いておくのってなかなかすごいかも - 犬たちの方がまだ互いに近かったり。でも神さまの目で俯瞰した世界ってそういうものだと思うし、我々が空を見上げるのもそういう事情を知っているからに違いないし。 映画を撮るというのもそこから始まったりするのではないか、という考察など。

少しだけ出てくるけど、ハチャプリ食べたくなるねえー。

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