11月7日、日曜日の午後、”Eternals”の後に続けて国立映画アーカイブの五所平之助特集で見ました。
戦争真っ只中でみんなが大変だった時期に戦意昂揚映画ではなく、相変わらずの困ったお父さんドラマを作ってしまうのってなんてすばらしいこと。終戦の年、1945年の8月31日に公開されている。
お寺の脇(or 中?)で食堂を営む文吉(河村黎吉)は妻が亡くなったあと酒もタバコも断って、長女の静江(三浦光子)とふたりで食堂を切り盛りしてきて、住職から静江の縁談の話が持ちこまれると調子よくてきとーに返してしまう文吉に対して、静江は冗談じゃねえなめんな、って不機嫌にブロックし続けている。
ある日、文吉の近所の幼馴染の徳次郎(東野英治郎)としげ(飯田蝶子)の夫婦から、地元の飛行機整備工場に派遣されてきた宮内(佐分利信 )の住処を探しているのだがよいとこが見つからないのでお宅の離れに住まわしてやれないか、と頼まれて、深く考えずに受けいれる。
真面目なよい人だから、という触れこみだったが、現れた宮内(坊主頭)はそこにいた静江の妹のたみ子(四元百々生)にあれ運んで、これ取ってとかいきなりぶっきらぼうに指図してきてあんたなにさま? なかんじで、あーすげえやな野郎だぞって、文吉に文句を言いまくるのだが、静江はなんとなく彼のことが気になっているようでそれを文吉の妹でお産婆のおきん(桑野通子) - いつも産まれそうな家々を飛び回っている - が隅でそうっと見守っている。
静江と宮内のふたりが不器用ながらだんだん近寄って仲良くなってきたところで、工場の部長(笠智衆)の娘の縁談に宮内をどうだろう? っていう話を聞かれた徳次郎と文吉が久々に飲んじゃった酒の勢いで(またか..)よいと思います! って応えてしまったことから騒ぎになるの。静江は泣くし、おきんは怒るし、宮内もなんだそれ、って激怒してそのまま寮に引っ越して視界から消えてしまう。
しょうがないので徳次郎の家に行ってやっぱり断るわ、っていうと当然ぶつぶつと文句を言われ – そこに突然現れたおきんの徳次郎夫婦とのやりとりがたまんない – で、それに続けておそるおそる部長のところに向かうと..
宮内のいる工場が扱っているのはおそらく戦闘機で、彼にもいつ召集がかかるのかわからないし、それを言うなら戦時下のみんながそう - ラストで車掌の仕事につくたみ子だって、大勢の赤子のために走り回っているおきんだって、明日がどうなるのか、家族や国がどうなっちゃうのか、誰も何もわかっていなかったはずなのに。 ここで「伊豆の娘たち」っていうタイトルを思うと、なんかくるの。
Rom-comと呼ぶにはあまりにぎこちないものの、そそっかしい文吉を中心とした隙だらけのアンサンブルの見事なこと。静江の誕生日に家族でお仏壇を囲んで文吉が20年ぶりに盃を口にはこぶ場面の柔らかな機微とか、悪気はないのでどうにも憎めない彼の周りで文句を言いまくるそれぞれの女性たちの表情や歩みの多彩さと確かさと。戦時下でこんなにもばらけた個の表情があった - 想像してみれば当たり前のことなんだけど – こと、それらを自身の30年代の作品と変わらぬトーンでさらりと見せてしまう軽さ。これを見た当時の人たちはどんな顔をして映画館から出てきたのかしら? って。
五所平之助のしょうもない男ばっかし映画の伝説が続いていて、なんかたのしいのだった。
11.17.2021
[film] 伊豆の娘たち (1945)
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