10.27.2017

[theatre] King Lear

こっちから先に書く。
24日の火曜日の晩、Chichester Festival Theatreていうとこで見ました。
英国に来て最初に演劇でみるシェイクスピア、がこれ。

8月の終わり頃にBFIでSir Ian McKellenのQ&Aと共に彼主演の”Edward II” (1970)を見て、その際に9月から彼は舞台で「リア王」をやります、チケットは完売状態ですが、と言われて、そう言われると無性に見たくてたまらなくなり、暫くの間 - 1ヶ月くらいだろうか - そこのチケットサイトをwatchしていた。 ら、1席空いてたのを見っけて速攻で取った。 取ってからこのシアターってどこにあるのかしら? て調べてみたらあーらびっくりロンドンから電車とバスで2時間以上ですってよ、で、でも開演は19:45てあるから17:00きっかりに出れば大丈夫よ、てそのときは思って当日まで放っておいた。 当日になってあたってみたら行きの電車は17:30くらいにVictoria駅を出るのに乗ればなんとかなりそうで、では帰りは? ってなって、そういえば上演時間てどれくらい?  て見たら3時間20分..(そうか「リア王」だった..)  その晩のうちにロンドン市内に戻ってくるのは難しいことがわかったので昼過ぎに現地の安そうな宿を取った。 ま、どうせ寝るだけだし、終電乗り過ごしたようなもんよ、始発に乗って戻れば会社はなんとかなるじゃろ、って。

Chichester、ていうのはロンドンの南の西のほうにあって、シアターは駅から歩いて20分くらいの公園(? 暗くてわかんなかった)のなかにあって、なんでこんなところで「リア王」なのかわかんないのだが、ステージは客席が囲んで見下ろす円形で、とても小さい。シアタートラムくらい? 自分の席は前から3列目で、こんな間近でガンダルフの杖が炸裂したら衝撃でみんな吹っ飛んじゃうだろ、て不安になったが落ち着け、これはしおしおの「リア王」だと。

演出はJonathan MunbyさんでこれまでRoyal Shakespeare Companyとかでも演出をしているひと。他のキャストでいうと道化をPhil Danielsさんがやっていて、バンジョー抱えて歌いながら走りまわってくれる。

舞台衣装はすべて現代のそれで、冒頭の王権譲渡の場面はみな近代の軍服の正装姿だし、軍の兵士は今のアーミー服だし、そればかりかケント伯は女性(Sinéad Cusack)が演じているし、コーディリア(Tamara Lawrance)もフランス王もコーンウォール公もアフリカ系の役者さんが演じている。 設定を現代に置いたからにゃ役者の配置も含めてダイバーシファイしないと変でしょこんなの当たり前でしょ、てかんじ。
描写もリアリズムに徹していて3幕の荒野を彷徨って嵐のなか狂っていく場面は天井からステージの狭い円に向けてほんとうに水がばしゃばしゃ、ものすごい量のが容赦なく降り注がれるし、同じく3幕のグロスター伯の目玉をくり抜くシーンは肉塊がぶら下がる肉屋の倉庫(?)で血のだらだらもとても痛そうだし。

ストーリーはいいよね。 3幕目までの陰惨で残酷な政治と権力をめぐるパワーゲーム、その狡猾さ非情さにうんざりぐったりし、休憩を挟んで4幕~5幕でのゲームに負けて放り出された者たちの救いのなさ無常さにどんよりしてどっちにしてもぐったりする。 もうそんなの見たくないからぐったり、ではなく、あまりに今のドラマとして生々しく迫ってくるので釘付けにされて考えこんでしまう、そういうほうのぐったり。

シェイクスピアの世界を、宇宙をまるごと舞台の上にぶちまけるという目論見はこの設定でもはっきりと生きていて、単に盛者必滅・栄枯盛衰みたいなお札貼って終わりではなくて、極めて具体的に、上のほうの連中はどこまでも卑しく浅ましくがんじがらめになって自滅し、真実を見抜いたものは道化、目をくり抜かれて亡者、浮浪者に堕ちて人の世から弾かれて地の果てを彷徨うしかない。

これらがリアルな目の先にある地面と今の時間と繋がっていることを確信させるには俳優の力技が必要で、それにしても出て来たひとたちみんな凄すぎる。エドマンド(Damien Molony)もリーガン(Kirsty Bushell)もエドガー(Jonathan Bailey)もオルバニー公(Dominic Mafham)もグロスター伯(Danny Webb)もうますぎてこわすぎて。
そしてリア王(Ian McKellen)の、かつて自身がすべてを治め、ひとつにしていた土地をばらしてしまったところから始まった世界の崩壊、これを自らの老害・自壊とおなじ線上の出来事としてあっさり体現してしまう、そしてすべてが粉々に散ってしまった後の燃えかすが、どんなふうに見えるものなのか、そんなことまで演技で表現することが可能なんだねえ、としみじみ恐ろしくなるのだった。

あと、どうでもいいことかもだけど、聞こえてくる英語のキレのかっこいいこと。こっちのPoetry Readingとかでも思うけど、多少わかんないとこがあってもオリジナルに触れておく、って必要だなあ、って。

終わったら23時過ぎてて、みなさん駐車場に向かって(そうだよね..)、自分はホテルまで歩いた。 ホテルは場所と値段と名前できめて、名前だけいうと、Tsai Ming-liangの” Goodbye, Dragon Inn”ていう映画を思い出したからだったのだが、たどり着いたそこはパブの裏手に作られた掘立小屋みたいなとこで、まさか相部屋? ではなかったが、ヒーターは付かなくて寒いのですぐに布団にもぐってねた。

翌朝は5:15くらいの始発に乗れば会社にじゅうぶん間に合うはずだったのだが、少し喉が痛くてだるかったのと、あんなすごい演劇見たあとだと、仕事なんてどうでもいいや(よくある)、になってしまい会社やすむことにして、6:30くらいの電車で戻った。

で、いちんちごろごろしてから晩に”Thor: Ragnarok”みて、やっぱこれだよねえ!(←てきとー)て盛りあがったらきちんと発熱して木曜日も会社やすんだ。 

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