11.16.2010

[music] Sufjan Stevens - Nov.14th

日曜の晩と月曜の晩、ついにBeacon Theaterを2日間Sold OutしてしまったSufjan。

日曜は別の場所でGrindermanもあったのだが、こっちを先に買ってしまっていたの。

オープニングはDM Stith。 このひとは、この後のSufjanのバンドでピアノとヴォーカルとダンスもやる。
暗闇のなかビーチボールを足元に転がし、ギター1本とヴォーカルのループを駆使して、ひとりBrian Wilson(をダークにしたような)状態に。
闇の深さにしっくりとはまる、低くも高くもない不思議な艶のある帯域の声でした。

みんな黙って静かに聴くしかなかった。

後でSufjanはこれを、Unicornの声、と形容していた。 たしかにそんなかんじ。 

ライブは8:45にはじまる。
ステージ前スクリーンが降りたその奥で、トレードマークの羽根がSufjanの背中できらりと光るのがわかり、更にバンジョーの音色が聴こえてきたのでちょっとほっとする。

オープニングの"Seven Swans"。 
前景と後景に大量の星屑が舞い、その光の屑がゆっくりとおうちやベッドや、人のシルエットを描いていく。 
彼の内側で、その最初期から鳴っていた声/呪い、彼を捕え、追いたててきた野火の渦、それらがゆっくりと夜のむこうから立ちあがる。 彼はそこから、彼が歌いはじめたその場所から改めて語りはじめる必要があったのだろう。 

そして前景のスクリーンが開き、羽根はどっかに行って、バンドの全容がはっきりする。
ものすごくいっぱいいた。11人くらい。 ダンサーズ(3名)が復活してて、自分の席からは見えなかったがドラムキットは右と左両方にあった。

「御来場頂きありがとうございます。このショーはCoca Colaの提供でお送りいたします」 「あと、Nikeもね」
どこまでいってもシニカルで。

「このショーは、世界の始まりと、その終わりを描いていきます」 「あと、その中間もね」
要するに、なんでもかんでもぶちこんでしまいました、と。

で、結局どういうふうであるかというと、"Avatar meets Cats on Ice" である、と。 
要するに、That's Entertainmentである、と。 確かにそんなかんじだったよ。

次の"Too Much"から新譜の世界に一挙になだれこむ。
新譜でのテンポよか数段速く、音は分厚くやかましくなり、ダンスとコーラスが炸裂し、背後のスクリーンはSufjan自身も含むジャンクなカルチャーの絵巻物になる。 これがぼくたちのいまいるところ、さ。

"Too Much"、とは、例えばこういうもんなのだと、この緩急激しく、ぜんぜん一箇所に落ちつかないかんじが最後まで続いていく。 曲毎に衣装が変わり、体や頭に装着するギアや楽器が変わり、たまにマイクスタンドが前に置かれて昔のFolkのスタイルになったりする。

"Chicago"の頃の、チアガールズを率いてバカなことをやっていた時期のライブも、それ以降のより内奥に潜っていった時期のライブも、その両方をスケールアップして、一挙にやろうとしている。 
そんなバカな。  と誰もが思うにちがいない。

でも、今、そうする必要があったのだ、それをやるのは今しかないのだ、というのもはっきりと伝わってくる。
というか、この晩のじたばたで、彼はほとんどそれだけを言おうとしてはいなかったか。




バンドはそのアレンジも含めて素晴らしい。 オープニングでDM Stithさんが、これのリハーサルは1日12時間とか14時間とか平気でやっていた、とこぼしていたが、それだけのクオリティのものであり、新譜でSufjanが描きだそうとしていた大風呂敷観をじゅうぶんに出せていたとおもう。

ステージセットは、別に豚が飛んだり壁が崩れたりといった仕掛けで攻めるわけではなく、手作りアニメと前景と後景とライティング、これをBeaconの奥行きたっぷりの舞台をうまく使ってまわしていた。
マルチメディアうんたら、と呼ぶにはあまりに手工芸すぎるのだが、少なくとも音楽には見事にあっていて素敵。

新譜のコアでありクライマックスでもある"Impossible Soul"の前に、このアルバムのインスピレーション元であり、今回のライブでもグラフィックのキーとなったRoyal Robertson (1936 - 1997) - Sufjanの蛍光服の背中には"ROYAL"とあった - の説明があった。

看板画家からはじまり、妻に逃げられた後、女性を呪い、スキゾフレニアを患いつつ世界・宇宙の根源を描いた大量のアートだの落描きだので自分の家とその周りを埋めつづけていったRobertsonをreference pointとすることで、何故自分はバンジョーを弾いて歌い続けているのか、その探究に解をみつけられそうな気がしたのだ、と。

そして、このアルバムを作ること、ライブをすることはサイコセラピーのようなもので、自分は患者であり、ここにいいるみんなは医者であり救済者なのだ、と。

たとえばここに、"Wish You Were Here"期のPink Floyd/Roger Watersの影を見ることはたやすい。
でも、はっきりと、これは彼のライブで、彼の音で、彼の症例 - こういってよければ -  なのだ、ということは十分注意しておくべきだろう。

とくかくこうして始まった"Impossible Soul"は当然のように30分を超えるドラマとなった。

part1での"Do you want to be afraid?"という問いに続き、part2のヴォコーダーパートで、かつてのBootsy Collinsのような金きらの鎧(しってる?)で登場し、"Now I know it wasn't safe"という恐れと惑いをごにょごにょと歌い、その後のpart3では、闇を祓うかのようにダンサーが前に走り出て床に貼り付けてあったビーチボールを客席に向けて蹴りあげ、すべての扉が開かれ、"Boy, We can do much more together"という確信と共にクライマックスになだれこむ。     


その爆発感は、それこそ"Hair"か天井桟敷か、みたいなもんで、Sufjanも含めてみんなで踊って(ちゃんと振りつけあり)、歌って、笑って、はじけた。 
どちらかというと凍りついていた客席もようやく総立ちになった。
対話形式で進むそのドラマが、結局のところ"Impossible Soul"で終ってしまうにせよ。ね。

でもね、とにかくおもしろいのは、ここまできても、ここまでやっても、まったく圧倒的なかんじがしないことだ。(欠点ではなくてね、もちろん)
確かに歌も音も人数分の厚さでぐいぐい迫ってくるものの、Funkのライブにあるような全体をグルーヴの波に巻きこむような、踊ればええじゃないか的な包容力はない。

ここに至ってもなお、Sufjanはたったひとりで客席のひとりひとりと向き合って、なんで自分はこんなふうな奇天烈な格好でこんなダンスを踊っているのかを全力で、かつ真剣に説明しようとしていた。 

果たしてそれは伝わったのか?
それは誰にもわからない、べつにわからなくてもよい類のもので、世界のはじまりとおわりすべてをひっくるめた途方もない規模の、宇宙の果てへの旅であること、は、なんとなくわかった。 とおもうよ。

あと、少なくとも新譜で用いられていた独特の話法 -シンセと弾き語りを共存させひたすら自己の内面に降りていくアプローチ - がライブでのダイナミクスとある面でははっきりと共振し、ある面でそれらを裏切り、振っきるようなエネルギーでもって彼を動かしていることもうかがえた。
やっぱりライブの、弾いて語るひとなんだよね。 たぶん。

こうして観客全員が放心状態になり、それに続いて本編ラストの、"Chicago"の最初の一音がかつてない力強さでもって響き渡るのを聴いたとき、背後 のスクリーンでぐるぐる周り続ける車のアニメーションと天井から泡のように降り注いだ風船と共に、彼のたどたどしく終わらない過去の彷徨いははっきりと肯 定され、これからもえんえん続いていくものであることを我々は知るのである。   

それが祝福されたものとなるのか、呪われたものとなるのか、知る由もないけど、旅は続くんだね。 

さよなら。 またね。


これでも終わらなくて、アンコールは4曲。 すべてむかしの。

- "Concerning the UFO Sighting Near Highland, Illinois"
- "Casimir Pulaski Day"
- "To Be Alone With You"
- "John Wayne Gacy, Jr."

最後の2曲は彼のギターと声だけになる。
ここにきてようやく、我々は彼の声の肌理がいかに孤独で、しかし美しくふるふると瞬いているかを知るのだった。ほんとうに美しい、宝石のような歌声。 全盛期のElliott Smithの、生のすべてがそこにあったような、あの声が。

結局、最後まで耳に残ったのはライブ全編に渡ってぱーぱか鳴り続けたProphet-5とか大所帯バンドのパワーではなく、この声でした、と。  

"Sufjan Stevens vs. the World"

アンコールの終わりまでで2時間15分。
今回のツアーlegは月曜日でファイナルで、彼は「新たな時代のはじまりの終わり」というような言い方をしていたが、そういったことも含めいろんな意味で今年のベストに入れざるを得ないライブ、でしたわ。

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