ワイマール映画が終わってMOMAを出たとこで4:00ちょうど。
ここから4:30までにFilm Forumに行くには結構、相当しんどいのだが、すこし走ったらなんとかなった。
お手洗い行って、ポップコーンとお茶買って、席ついたら4:30。 Beautiful、だわ。
スタインベックの『怒りの葡萄』を原作にしたJohn Fordの40年作品。
小説と映画、今やどっちが作品として有名なんだろ。
公開70周年を記念して35mmのニュープリントが焼かれて、そいつが、2週間だけ公開されている。
70歳を迎えた映画とは思えない瑞々しさ、そして古老の巨大さと偉大さはそのままに。
大恐慌時代のアメリカの苦悶の民衆史とか、抑圧と怒りとか、社会構造と貧困とか、そういう問題意識からかぶりついてみるのもいいだろうし、単にひー、屑ばっかしだったとしてもいまの時代に生まれといてよかった、とか胸をなでおろすのもありなのだろうが、この映画で見るべきなのは、やはりその深く黒々とした映像の美しさ - それを美しさと呼んでいいのかわからないが、何故か我々を釘付けにする闇の深さ - ではないか。
ひとはこの闇の前になすすべもなく立ちつくし、凝視するしかなく、しかし遠くからの声とかノイズとか - The Sound and the Fury - ははっきりと、繰り返し反響していくのを聞き、感じることができる。
この映画に関しては、ダイアログとか字幕はそんなに重要ではなくて(いや重要だけど、まずは)、全神経を目と耳にしてその世界に入ってしまえばよくて、これはそれだけのスケールのでっかい作品なんだとおもう。
MOMAのワイマールのを見てもしみじみ思ったことだが、白と黒の、光と影の間、映画の闇のむこうにはどれだけ深くおそろしい業だの霊だのが宿っていることか。
それらは映画製作者たちによって作りだされたというよりも、呼びよせられて、吸いよせられるようにそこに何かが来たのだとおもう。 そうとしか思えないような、磁場のような、霊場のような光と影のありよう。
というわけで、この映画のGregg Tolandのカメラはほんとうにすごい。
しばしばDorothea LangeやWalker Evansの写真に比較されて語られることが多いが、あれよかすごいと思う。
もちろん、他も、アカデミー助演女優賞をとったMa(おっかさん)もよいし、それを俳優さんの演技とは呼びたくないくらいに暗く、小汚くじっとりとしたHenry Fondaも。
この映画でのHenry Fondaは、顔よりもその声、重く沈んで粗く、でも耳に残って消えない声だとおもう。
そしてその声が、”I'll be all around in the dark - I'll be everywhere.” というとき、その声はほんとうにそこに、それこそeverywhereにあって、この声を起点としてSpringsteenは"The Ghost of Tom Joad"を書いたのではないか。
というようなことを、Peter Bogdanovichさんも書いている。(出典はどこだろ)
"There is possibly no more touching utopian speech in pictures than Tom Joad's vision of a better world at the conclusion of Steinbeck and Ford's The Grapes of Wrath, but it is Fonda's extraordinarily beautiful incarnation of this man and those words that makes the moment both transfixing and ultimately transcendent. 'I'll be here,' he concludes; and Springsteen is right that the ghost of Tom Joad will always be there to haunt American for its broken promises?the ghost of Henry Fonda as well, having merged seamlessly into that outlaw mystic."
そして、こういう映画がリバイバルされるたびに言われる「今でこそ見られるべき映画」みたいな賛辞については、思考停止だろと言われることを百も承知の上で、それでもやっぱし今でこそ、と言うほかない。
Tom Joadの声が至るところで、いまだに止まないのと同じように、アメリカの富裕層~支配階級のとんちきな豚頭も性懲りもなく変わっておらず、今やそれは間違いなく世界中に、無反省にひろまってしまっているに違いないからー。
そして、この作品は、昨今撮られているどんなドキュメンタリーよりも雄弁に、語るべきことを語って揺るがないのであった。
11.30.2010
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