4.03.2024

[film] Baltimore (2023)

3月23日、土曜日の晩、CurzonのMayfairで見ました。
タイトルのBaltimoreはアメリカのではなく、アイルランドの南、コークにある村の名前。アメリカでの公開タイトルは”Rose's War”だったそう。

監督はJoe LawlorとChristine Molloyの共同で、1974年に実際に起こった絵画の盗難事件とその中心にいたRose Dugdale (1941-2024 – ついこの間、3/18に亡くなっている)の姿を描いている。90分と長くないのだが、すばらしく濃く詰められた時間がある。

冒頭、Rose Dugdale (Imogen Poots)はお屋敷の床に倒れていて、布を巻いた手は血まみれで、でも立ちあがって屋敷にいた仲間と思われる男たちと共に絵画を運び出そうとする。

でっかいお屋敷 - Russborough Houseに押し入ってそこにいた家族を縛ったり殴ったりして、仲間に運び出す絵画の指示をして、という荒れた犯行の現場と並行して、お嬢様だった頃の家族でのキツネ狩りの記憶、オックスフォードで学生運動に参加しながら英国の貴族のお嬢様としてデビュタントへの参加も求められたりしつつ、学生運動の方はやがてIRAの闘争に繋がって今はそこに彼もいるらしい。

襲撃事件にありがちな自分の身元がばれそうになった時、そこにいた人~人質とか隠れ家の宿の主人とか、痕跡を覚られたり騒がれたりした時にその相手を殺すべきかどうか、Roseにそれをやる覚悟と度胸があるのか、が常に問われて、その都度クローズアップになったり振り返ってこちらを見つめるRoseの表情にはキツネ狩りで傷ついたキツネや他の子よりは大切に育てられてきたであろう過去が浮かんで、でもその反対側で組織と使命と革命にはコミットして燃えているので、やっちゃえ.. でもどうする.. ってこんがらがっていく複雑さがすばらしい。タイトルの”Baltimore”は、彼女が他のIRAメンバーと落ち合うことになっているアイルランドの約束の地、なの。

押し入ったお屋敷で主人とその妻は縛られて転がされ、Roseは怯えている小学生くらいの坊やの相手をしつつ、でも騒いだら殺せ、と言われているので自分はこんな子供を殺せるのか、というのと、仲間からはびびっているように見えないか、の方も彼女をひきつらせて凍らせる。

お屋敷を出て車で行った先の小さなコテージでは、盗ってきた絵画19点が並べられ、そのなかにはルーベンスやゴヤやフェルメールの「手紙を書く婦人と召使」(1670-1671)があったりして、絵画の来歴や価値についてすらすら語るRoseはお嬢さまだねえ、なのだが、その知識をもって電話がある村の雑貨屋にいってアイルランドのNational Galleryに対して絵画の身代金の交渉にはいる。その会話でちょっとしたフランス語アクセントに気づかれてしまったり、目の不自由な宿屋の主人を殺して掘った穴に埋めて出ていくことはできるのかとか、犯罪の成り行きや成否よりも、彼女のなかの何が踏みとどまらせたり、悩ませたり、前に進めたりするのか、が時間の経過と共に、映しだされる過去の思い出のなかに現れては消えていく、そのとても犯罪映画とは思えない静けさと、フェルメールの絵画が置かれた室内で、フェルメールのと同じ構図で人が動いていたり、おもしろい。その静けさのなかで被害者ではなく、加害者側にいる女性がずっと悲鳴をあげている、と。

貴族のお嬢様が過激派テロリストに! というコメディになってもおかしくない設定をImogen Pootsは極めて真面目に真摯に - 本当に起こったこと(本当に起こったし)として演じていて、彼女のずっと見開かれた目を見るだけでも、の必見のやつ。


Easterの四連休が終わったばかりなのだが、明日からまた別の四連休にはいります。 昨年、まだ日本にいた時に取っちゃったやつなので、しょうがない(しょうがなくない)。

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