6.24.2021

[film] Surge (2020)

6月19日、土曜日の昼、BFI Playerで見ました。
見るからに暗くて怖そうでサイコなどこを切っても英国映画なのだが、Ben Whishawを見るためだけに105分を。

ロンドンのStansted空港にセキュリティ警備員として勤務するJoseph (Ben Whishaw)がいて、ディパーチャーの手荷物チェックのところで、探知機にひっかかった乗客のボディーを服の上から触って確認する係で、(空港を使うたびに大変だろうなと思うし)その様子を見ているだけでストレスのレベルがあがってしまうのだが、仕事が終わって帰宅してもひとりでご飯食べてぼーっと宙を眺めてほぼ喋らず動かず。

ある日、仕事の後に父のAlan (Ian Gelder)で実家に戻り、母のJoyce (Ellie Haddington)も加えて家族で話そうにも父はずっと不機嫌だし母は途方に暮れていてなんの集まりだかわからなくて、Josephの誕生日のケーキを出そうとしたところを見られた母が動転して更にぎこちなく全員が気まずくなり、その空気に耐えられなくなったJosephはコップを歯で噛み砕いて口内血まみれにして家を飛び出してしまう。

その辺でなにかの糸が切れてしまったのか、翌日の空港で大暴れしてクビになったJosephは、そのまま仕事の同僚で少し仲の良かったLily (Jasmine Jobson) - 風邪をひいて休んでいた - のアパートに行って、映らないと言っていたTVを直してあげるよ、って。でもそれにはケーブルが必要だな、と近所のデリに行ってケーブルを買おうとしたらデビットカードが使えなくなっていて現金もなくて、銀行の窓口に行ったらまずIDを言われて、運転免許証もないので、しょうがないかって、銀行強盗(銃をもってる。騒がずに金をだせ)をやっちゃうの。

それがあっさりうまくいって、LilyのTVも直って彼女とハグして気が大きくなったのか盗んだ現金で高そうなホテルに泊まって、滞在した室内のベッドとか家具を静かにぐしゃぐしゃにして(すばらし)、続けて次の銀行でも強盗して両親のところに行ったら…  (いくらなんでも捕まらなさすぎ、だとは少しだけ思うー)

トリガーは実家での両親とのやりとりだったのか、空港のチェックで変に絡んできた中年男性だったのか、どちらでもありそうなのだが、後者だったら膨らんでおもしろくなったかも。

割と真面目に平凡にやってきた男性が突然ぶちきれて転落していくありがちなお話 – すぐ思い浮かぶのはMichael Douglasの”Falling Down” (1993)とか – とは少し違っていて、冒頭から彼の頭のなかには不機嫌と不安と不満がとぐろを巻いていて、その渦が耳鳴りのようにでっかくなって収拾がつかなくなっていくお話で、彼は自分のことをわかっているしコントロールもできているのだと思う。その範囲内で止められないなにかが噴きあがって(Surgeして)しまってそれがそのまま行動に押し出される。失敗でも転落でも不自然でも理不尽でもない。

服装も表情も地味でどこにでもいそうな若者の頭蓋骨の裏側と脳の隙間に吹く隙間風の冷たさと不快感を頬や眉間の歪みでその襞まで、口蓋の裏に滲む血の味まで表現してしまうBen Whishawのものすごさ。”Paddington”の熊の声のキュートさに、007のQのスマートさに騙される人はいないと思うし、”Mary Poppins Returns” (2018)のMichaelとか”The Personal History of David Copperfield” (2019)のUriah Heepのように複雑であればあるほど深みを増すのもわかるけど、このひとの凄みと怖さが全開になるのは、ちっとも悪くないしおかしくないだろほら、って気がつけばなにかを撒き散らしている”Little Joe” (2019)の科学者とかこの作品のJosephみたいな男性。ごくふつうにそこらにいるー。

うん、自分もそうだからこうなっちゃうかも、既にとっくにそうなのかも、と思わせてしまう「自然」さ。とその反対側に立ち昇ってくる強烈な違和と嫌悪、これらを両方一編に共存させて体現しまう顔面と身体の強さ。これってどんな訓練をしたら表に出せるようになるものなのか。

こういうのもいいけど、早く次のPaddingtonでほっこりさせて。


天皇まで出てきた。次はポツダム宣言が。

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