6.11.2021

[film] Blood Simple (1983)

6月5日、土曜日の晩、Criterion Channelで見ました。

ずっと同じようなことを書いているのだが、ここんとこずっとだるくてだめで、映画館は6/4にシネマヴェーラで『幽霊暁に死す』(1948)を見て、6/6にシネマカリテで“Cruella”見て、もっと見たいと思う反対側でどうも人混みに疲れたのか足がそちらに向かず、家で見るのもCriterion ChannelでCarole Lombardの”No Man of Her Own” (1932)を見ても、Judy Hollidayの”It Should Happen to You” (1954)を見ても、すぐにどっちも見たことあるやつじゃん、て気づいたり、MUBIでSergei Loznitsaのとかを見て震えて、震えているうちに寝てしまったり。

そういう事態をなんとか打開せねば、って、少しだけ怖めのを見てみよう、と。有名な作品だと思うのだが見たことなかった。Joel Coen & Ethan Coenの長編デビュー作。

タイヤの破片が転がった昼間の道路が映されて、世界は文句をいう奴ばかりだ、というナレーションと共に工場とか原野とか、そしてこのテキサスでは.. って夜のハイウェイを走る車に切り替わってタイトル。 車にはRay (John Getz)とAbby (Frances McDormand)のふたりが乗っていて、Abbyの不幸な結婚について話している。ふたりは既に親密な関係にあるようだが、熱狂的に愛し合っているふうでもなくて、うんざりどんよりと話した後でモーテルに入ってセックスをする。

翌日モーテルの部屋に電話が掛かってきてRayが出ると相手は名前を告げずに、もうわかっているぞ、のようなことを言って切れて、続いてAbbyの夫 Marty (Dan Hedaya)にふたりの証拠写真を見せて金を貰う私立探偵のVisserがいて、Martyは妻の浮気に怒って静かに燃えている。

RayはMartyの経営するバーのバーテンダーで、妻の相手がRayであることはわかっていて、Rayの家にいたAbbyを力ずくで連れ去ろうとするのだが指を噛まれて股ぐらを蹴りあげられて、ものすごく頭にきたらしく、この後にVisserに$10,000で殺害を持ちかけて..

こういうのがそれぞれの人の間の愛とか憎悪とか怒り、のようなところでどす黒いうねりを作ってドラマが進行する、というよりもバーの暗がりや道路脇やモーテルといった、人はいるけどいないようながらんとした場所で、ひたひたと人知れず、影の仕業のように顔のない情念のみが動いていって、それに対してひとりひとりはどう動いていくのか。

金を貰ったあとで、VisserがAbbyの拳銃を使ってMartyを撃ち、死んでいなかったMartyを見つけたRayが彼を遠くに運んでいって埋めて、VesselがRayを撃って、最後にAbbyは(彼女がMartyだと思っていた)Vesselと対峙する。そこにはくっきりとした復讐の連鎖とか犯罪の臭いはあまり感じられなくて、MartyがAbbyにプレゼントした銃が呪いにかけられて関係者を次々と穴に落っことしていくような。人々は多少あがいたり呻いたり抵抗したりするけど、最後には穴にずるずると、半自然落下、みたいに滑り落ちていく。

かつてのノワールにあったような運命とか宿命とか業に向かう/向かわせる強いネジ、逃れられないものはなくて、歪んでがらんとした大地の上や家の中で、濃い顔をして思いつめた変な人たちが固まってじたばたしている様を少し離れたところから見ているような。なので、「スリラー」かもだけど、そんなにははらはらしない。もう少し近くに寄って、もう少しきみの悪い、病気に近いような何かを凝視しようとするとDavid Lynchになるのかもしれない。

RayがMartyを埋めるあの夜の恐ろしさ、それが明けた翌朝の鳥の群れ、あれらはすごいねえ。あのかんじが肌感覚でなんとなくわかってしまうというあたりも。

それか、Frances McDormandかっこいい! だけでよいのかもしれない。

そして、Carter Burwellの音楽の旋律のクールなことと、それを始めと終わりでサンドしている The Four Topsの”It's the Same Old Song”のホットなこと。焚きたてのお風呂のような。


明日(もう今日か)はRSDなんだねえ。今回はあんまない(みたい)だねえ。どうするか。

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