6.13.2021

[film] The Beach Bum (2019)

6月12日、土曜日の夕方、ヒューマントラスト渋谷で見ました。

関係ないけど、はじめBunkamuraの方にあった昔のヒューマントラストの方に向かおうとしてて、ちがうちがう、って引き返した。しばらく離れているとそんなもんよ。そういえばもうシネマライズもシネセゾンもないの。浜辺のコジキの映画を「ヒューマントラスト」なんて名前の映画館で見るの。あーあー(疲れてる)。

Harmony Korineの新作。昨年ロンドンでもロックダウンが一瞬開けた頃に映画館でやっていた。ものすごく多くの人々が亡くなったロンドンにいて、パンデミックの明けた隙間に上映されても、見る気にはなんないよね、マイアミの浮浪者の映画なんて。 でもこの内容だったら、見ておいてもよかったかも、って思った。

Moondog (Matthew McConaughey)は、かつては成功していた詩人だったらしいが、いまはぼうぼうの長髪と髭で女性の服を重ね着して、酒とタバコとドラッグとセックスにまみれてキーウェストの盛り場をふらふらしていて、でも本人は幸せそうだし、いろんな人が声をかけてくれて石を投げてきたり追い払ったりしない。ある晩に白い子猫(ごろごろ鳴いてる)を拾ってそいつと一緒に徘徊していると、資産家の妻Minnie (Isla Fisher)から電話が来て、娘Heather (Stefania LaVie Owen)の結婚式もあるんだから戻ってきなさい、と言われたので、はーい、ってマイアミに戻って、妻の愛人ではっぱを売っているLingerie (Snoop Dogg)と再会して、式は恙なく執り行われて、らりらりの状態でMinnieと車をぶっとばしていると事故にあってMinnieは天に召されてしまう。

ここから悲劇の雪だるまが始まるかと思ってもそうはならなくて、Minnieの遺言で本を書きあげないと彼女の資産は彼のところに入らないようになっていたり矯正施設に入れられたりするのだが、彼はそんなの気にせずにFlicker (Zac Efron)と一緒に逃亡してCaptain Wack (Martin Lawrence)とかLewis (Jonah Hill)とかと出会って、合間にタイプを続けて、そうやって出版した本がピュリッツァー賞を受賞してよかったよかったになる。

まじめな人が見たら怒ること確実なくらいにMoondogの所業も言い草も詩(ぜんぶ過去の詩人の引用)もヒトをなめくさったもんで、最後に花火でふっとんじゃったかと思ったけど、そうはならないし、娘とも和解するし、なんだこりゃなのだが、誰にもどこにもMoondogを非難する資格なんてないし、なんで非難しなきゃいけないの? って問いは自分に向かってくるにちがいない。ふまじめだから? ふまじめのどこがどうしていけないの? まじめじゃないから、って答えになっていない。

Harmony KorineはMatthew McConaugheyという(+ Snoop Doggという)ポジティヴィティとぶっとい男根(武闘の槍ではなく友好の竿として機能する)の象徴のような人物を造型してフロリダの楽園に置いて、そうすることで現れる(実際には現れないに決まっている)楽園のありようを描いて、それは結果としてコロナ禍の世界ではますますもってありえない、でも朝日や夕陽のようになくてはならない、みんなが待っているなにかを、生き残るために必要ななにかを教えてくれる - いや、教えてくれなくたってよくて、いるだけで、彼を見ているだけでなんだか楽しくなるのだからそれってすばらしいではないか。

もちろんそれはMatthew McConaugheyというスマートな白人によって演じられたから、これがSnoop DogやMartin Lawrenceだったらどうだったか、というのはあるだろう。けど、彼の - これまでの映画で見せてきたのと同種の - 底の抜けた意味不明の明るさと雄叫びがもたらした何かが、見事な導火線となって炸裂していることは否定できない。

あと彼、天才バカボンのパパだよね。妻はしっかりしていて、娘もお利口で。いまの時代、バカボンのパパが受け容れられるのかどうなのか、はあるけど。Moondog的な天使は、Michel Simonからバカボンのパパまで、昔は至る所に転がっていた気がする。彼らをいま、スクリーン上に呼びだすことの困難て、なんなのだろうか、と。

あと、Moondogのような人って、探せば世界のどこかにはいそうな気もして、もし見つけたら王兵あたりにドキュメンタリーを撮ってもらいたい。


えー、念の為のメモ書きだけど、まだ緊急事態宣言下、だよね?

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