3.26.2026

[film] O Agente Secreto (2025)

3月15日、日曜日の午後、CurzonのBloomsburyで見ました。

英語題は”The Secret Agent”。もっと早くに見たかったのだが、上映時間がほぼ3時間で、この季節に3時間はやめて、だったのだが、これがオスカーの外国語映画賞を獲る予感もあったし(後で、そうか”Sentimental Value”があったか)、みんながそう思ったのか小さめのシアターは一杯になっていた。

作、監督は”Aquarius” (2016), “Bacurau” (2019) - 共同監督 - のKleber Mendonça Filho。昨年のカンヌでプレミアされて主演のWagner MouraがBest Actor、監督賞やFIPRESCI賞などいっぱい獲っている。

1977年、軍事独裁政権下のブラジルが舞台で、オープニングのモノクロ写真のなかに当時のCaetano VelosoとMaria Bethâniaが一緒に写っている一枚がでてきて、おおーってなったり。

黄色のフォルクスワーゲンのビートルに乗ったArmando(Wagner Moura)が死体の転がっている不吉なガソリンスタンドを抜けたりして、カーニバルで湧くレシフェの街で、義理の両親の下で暮らしている息子に会う。Armandoの母は亡くなっていて、そこには家主のDona Sebastiana (Tânia Maria – あのTânia Maria!)のもと、いろいろ裏がありそうな人達が匿われるように暮らしていて、でも最初のうちは彼がなにをする/してきたどういう人物なのか等は一切明かされず、カーニバル前の熱くて不穏な空気と現れるひと全員がやばい風に見える建物の中と外、通りの様子を映しだしていく。

雰囲気としてはほぼ同じ時代(こちらは1971年)の失踪を描いた”I’m Still Here” (2025)に近いが、具体的な事故や事件をきっかけに動いていくわけでもないので、あれよりも敵味方の見分けがつかないし、カーニバルなので何がどこから飛んでくるのかわからない異様で濃密な空気感に溢れている。

もうひとつ、当時公開されたばかりの映画”JAWS”の怖さが海辺の街をざわつかせ、Armandoの息子も映画を見たくてじたばたしているなか、実際に仕留められたサメの腹から毛むくじゃらのヒトの脚が出てきて更に恐怖を煽っていたり。

やがてArmandoは元研究者で、Marceloという偽名で市のID管理をする部署で仕事をしながら、反体制のネットワークの人々と会っていくなか、傲慢な企業オーナーによって職を追われた自身の過去、それに絡んで腐敗した警察署長とその部下たちが自分を追っていること、等が明かされていって、最後の方は殺し屋が。

約50年前の歴史、というよりある人物が本当のところ何者で、どういう目的をもって、どこで何をしていたのか、それだけを追うだけなのに、の難しさが、母の消息を追うArmandoだけでなく、現代からArmandoの消息を辿っていく学生の目も加わって現代の歴史、というほどのものではない消息とか痕跡、のようなものはどうやってあぶりだされるのか、或いは独裁政権下で反体制だった人達はそんな扱いとならざるを得ないものなのか、などを、カーニバルと”JAWS”の熱量、湿気のなか、ひとつひとつ置いていって、でっかいタペストリーが作られるのを見るようだった。

最後の方で、殺し屋がArmandoを追っていくシーンの街角や屋内や床の様子の恐ろしく息が詰まる描写のすごいこと。

90年代の中頃、リオとサルバドールのカーニバルに行ったことがあって、リオでひと晩見た後で寝ないでサルバドールの方に移動して、いまあれをやったら簡単にしぬと思うが、その時に感じた祝祭の勢いの裏側にあるひんやりとした狂った何か、暗闇に潜む止まらないなにかが少し写っている気がした。カーニバルの頃の街って、そんなふうで。

あと、でも、当時のブラジルがどんなだったか、一切知らない人が見たらどう見えるのだろうか、とか。 

 

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