2.19.2024

[film] The Iron Claw (2023)

2月13日、火曜日の晩、Picturehouse Centralで見ました。

Fritz Von Erichから始まるVon Erich家のプロレスリングにかけた一家の実話ベースのお話しを”Martha Marcy May Marlene” (2011)のSean Durkinが自分で書いて監督している。A24の。音楽はArcade FireのRichard Reed Parry。選曲もすごくよい。
 
Fritz (Holt McCallany)が必殺技「鉄の爪」で築いて頂点を目指していったプロレスラーの夢を息子のKevin (Zac Efron)が継ごうとして次の弟Kerry (Jeremy Allen White)やその次の弟David (Harris Dickinson)もそこに加わって、アメリカのショービズ界で成りあがっていく話。あとは幼い頃に亡くなった長兄とミュージシャンを目指す末っ子のMike (Stanley Simons)がいる。母(Maura Tierney)は静かで敬虔なクリスチャンでおとなしくてやさしくて、テキサスのレスリングに取りつかれた父とそれに懸命についていく子供たちの幸せなのかそうでないのか – たぶん幸せだったように見える家族の肖像を描いていく。”Martha Marcy May Marlene”にもカルトに触れて惹かれて危うくなっていく女性の姿があったが、そういう熱狂的に巻きこんでいく力とかなにかに対する距離の取り方 - 幸せの描き方 - がものすごくうまい。プロレスを、あの時代のアメリカのプロレスを知らなくても十分に楽しめると思う。

必殺技の”Iron Claw”は、手が大きくて握力が強い人にやられるときついのだろうが、一見そんなすごい技には見えなくて、でも目を覆われて頭を指でぎりぎりされるのって、しつこくやられたら嫌になって降参、になるのかも。そうやってFritzは子供たちを、あの家を締めあげていったのかも。父は息子たちを自分の好きなようにランク付けして、自分のお気に入りになるように仕向けて、子供たちは何の迷いも葛藤もなく筋肉を鍛え上げてスポーツの世界に入っていく。

映画で描かれた1970〜80年代のこの家族にどんなことが起こったのかについてはWebにいくらでもあるだろうから触れないが、他殺(自殺はあったが)とかDVとかものすごく悲惨な陰惨なことが起こるわけではなく、互いに憎悪や仮面にまみれていたわけでもなく、全体としてはひとつの家族として鉄の爪でがっちり固められていて、息子たちは決して父親に逆らわないし、父親は無理強いなんてせずに、みんなの合意のもとでひとつの栄光に向かう、典型的なスポ根ドラマになっていて、この映画のよいとこは、だから/それでも彼らはずっと幸せでした、家族すごい! えらい! みたいな描き方を1ミリもしていないところだろうか。5人男の子が生まれて、ひとりを除いて若いうちにみんな死んじゃって、うちふたりは自死、って…

そしてそんなふうにぼろぼろになっても、彼らはリングに向かうの。川に戻る鮭みたいに。ちっともわかんないけど。これを見ると、アメリカの中でなんでテキサスがあんなんなっちゃってしまったのか、なんとなくわかる気がした。説明できないけどやるぜ! おれは◯◯だからな! っていう非論理を強いられ、それが常態化してしまうのがとてもこわい。

日本にはプロレスおたくの人も多いしいろんなことが語られるのだろうが、日本の典型的な家族のありようとここで描かれたそれとの偶然のような近さについても語られてほしい。いまや日本は世界にとってテキサスみたいな位置にある.. とまでは言わないけど、それでも生き残った彼らは幸せのようにみえるしいいじゃん、とか。

音楽は予告でも流れるBlue Öyster Cultの"(Don't Fear) The Reaper"とか、レコード盤に針をのせるところからほぼフルで流れるRushの”Tom Sawyer”の他に、Kevinの結婚パーティーでみんなで踊るJohn Denverの"Thank God I'm a Country Boy"など、悪くなかったの。


David Bouleyが亡くなった、と。
初めて彼のレストランに行ったのはDuane Streetの最初のロケーションにあった頃で、フレンチってこんなに奥深くてすごいのか、って思い知らされた最初で、その近所にできた新しい方にも通って(頻繁に行けるわけではないのだががんばって)行くたびにお腹ぱんぱんになり、でも出てくる - お皿きれいにするといくらでも次を出してくる - から食べちゃうのでお腹破裂して死んじゃうかも - ここならこのまま死んでもいいや、って思った最初のレストランだった。ベーカリーをつくっても、オーストリア料理のお店 - Danube - を出してもどれもおいしくて、ここ数年は帰っても開いてなくてどうしたんだろう、って寂しかったら…

ありがとうございました。あなたのお皿、どれだけ戴いたかわからないけどどれも大好きで、他に替わるものがありませんでした。天国にいったら(いけたら)予約できるかしら?

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