1月30日、火曜日の晩、BFI Southbankで見ました。
邦題は『白い恐怖』。原作はFrancis Beeding (Hilary St George Saunders & John Palmer)によるサイコスリラー小説 - ”The House of Dr. Edwardes” (1927)。監督はAlfred Hitchcock。脚色はイギリス時代からずっと組んできたAngus MacPhailのをハリウッドでBen Hechtが仕あげている。
昨年のカンヌでお披露目された4Kリストア版のUKプレミア、ということでずっと売切れ印がついていたのだが、当日のお昼くらいになんとかもぐりこむことができた。
リストア版の美しさについてはものすごく強調しておきたい。もともと白と縞模様を巡るオブセッションが鍵となるので、その色と模様がそれなりの強さで迫ってこないとお話にならないのだがその質感まで十分にゴージャスに再現できているかも、と思ったのと、Ingrid Bergmanのしなやかさは勿論、SpellbindingされたGregory Peckの絵画的と言ってよい病的な白くて鋭い顔が夢に出てきそうなくらいにこわい – この人こんなこわい顔するんだ、って。
夢についてはダリがこの映画の悪夢のシークエンスを作ったことも有名で、トリュフォーによるヒッチコックへのインタビュー(の抜粋が上映時に配られる作品の解説一枚紙に載っている)によれば、パブリシティなんかよかもっと真剣に悪夢を掘り下げて、屋外で撮影してBergmanをアリまみれにしたかった、などと言っていて、確かにそれくらいのことをやればよかったのに、と思ってしまうくらいにやや普通すぎて弱いのが残念。
精神科医のDr. Constance Petersen (Ingrid Bergman)が勤めるバーモントの精神病院/療養施設で休職している所長の後任としてDr. Anthony Edwardes (Gregory Peck)がやってきて、若い彼にぽーっとなったConstanceは恋に落ちるのだが、白いものとかしましまを見ると彼の挙動がなんだかおかしくなったり、署名が違っていたり、彼はほんもののEdwardesではないと確信するのだが、それではこのひとは誰? となると彼自身にもわからないらしく、そのうち姿を消してしまい、彼を追っかけていくのと、NYで彼を捕まえてからは本物のEdwardes探しも含めてふたりでいろいろ探っていくことになる。
後任の所長が決まった時点でプロファイルも含めて写真など一式は来ているはずなので、現れた時点でのチェックがないまま、そのままふたりが簡単に恋に落ちてしまうのとか、挙動がなんかおかしいことがわかった時点で(病院なんだし)拘束して調べるべきだったのに、恋をしていたからといってなんか緩くて、おそらくSpellbindingされたGregory Peckを追いかけて/追いつめていく終わらない悪夢の迷宮をどこまでも(他の多くのヒッチコック映画同様に)掘りさげていくか、原作のように彼が病院を支配して悪の巣窟にしてしまうか、どちらかのがダークでおもしろくなった気もするのだが、恋ってやつは… こんな具合にこの映画のBergmanの描き方を見ていると物語をつまんなくする方に作用しているふうにしか見えなくて、そこも含めてほらね、って(ヒッチコックが)言っているように思えた。この頃のIngrid Bergmanにはなにをやらせたってものすごい、ということであればそうだねえ、しかないのだが。
その人の頭のなかで何が起こっているのか、なんでそうなっているのかなんて、本人にだってわからないことが多いのに、その状態でどうして恋なんてできるのかちっともわかんない、というありようを”Spellbound”って言い捨てて、最後をあんなふうに締めて(閉じて)しまうのは素敵としか言いようがない。
2.12.2024
[film] Spellbound (1945)
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