2.28.2024

[theatre] Dear Octopus

BFI Southbankの川を背にしたすぐ左手にはNational Theatre (National Theatre Liveの本拠)の建物があって、これまであまり足を踏みいれたことがない地帯/領域だったのだが、今回の滞在ではそこも突っこんでいこう/いっちゃえ、と思っていて、そこに先月終わりくらいから”Dear Octopus”の看板が立つようになり、”親愛なるタコ” … なんだろう? って気になり始めた頃に、これの映画版の上映があることを知り、まずはそれを見てみようか、ってなった。

原作の戯曲はDodie Smith(1896-1990)で、この人が書いたので有名なのはなんと言っても”The Hundred and One Dalmatians” (1956) - 『ダルメシアン 100と1ぴきの犬の物語』- アニメにも実写にもなっているあれで、彼女自身が若い頃役者もやっていたので劇作については詳しい – と映画版の上映前に紹介されていた。

Dear Octopus (1943)

2月20日、火曜日の晩にBFI Southbankで見ました。

イントロで今回のNational Theatreでの上演版の演出・監督をしているEmily Burnsさんが(主に)Dodie Smithの紹介をした – それがおもしろそうだったので数日後に舞台版の方も見ることにした。

上映はもちろんフィルム - デジタル化されていない - で、ここで上映されるのは1996年以来のことだという。日本では上映も原作の翻訳もされていない模様。 映画版の監督はHarold French。”The Randolph Family”のタイトルでも上映されたそう。

なんの予備情報も入れないで見たので、まずついていくのが大変だった。
イギリスの片田舎の代々続く館(大きくない)に暮らすCharlesとDoraの Randolph夫婦のGolden Wedding – 金婚式を祝うべく、子供も含めて4世代に渡る家族が続々と集まってくる – というアンサンブル・コメディ/家族ドラマで、Nicholas (Michael Wilding)とPenny (Margaret Lockwood)の少女漫画みたいな恋物語が軸となっていることはわかるものの、モノクロでいろんな人物が次々に登場してみんなそれぞれの立場と過去のいろんなのをテンポよく喋りまくり口論したりしているので誰が誰、の関係などを追っかけていくのがなかなかしんどい。けど第二次大戦下に、こういう家族のお話しが必要とされて受けた、というのはとてもよくわかった。


Dear Octopus (2024)


2月24日、土曜日の晩、National TheatreのLyttelton Theatreで見ました。一回の休憩込みで2時間50分。

原作が劇作だから、というのは理由になるのかならないのか、映画版と比べるとこちらの方がものすごくわかりやすくて、あっさり感動してしまうのだった。モノクロではなくてカラーというのもあるのだろう、人の顔と衣装ですぐにこの人ってわかる、のは大きいのね。 セットは家のダイニングとドローイングルーム(客間)と子供部屋がぐるーっと回転して、そして人が出入りする玄関。客間では現在やこれまでのことも含めて、それぞれがいろんなことを語り合い、子供部屋では昔ここでこんなことをしたよね、というやりとりが現在の子供たちも交えて話し合われたり、あちこちで小さな喧嘩に失望、驚きや歓びが湧きあがって止まらない。

あの人いくつになったの? 普段なにしてるひと? いまひとりなの? などのひそひそ話、亡くなった家族を悼んだり、母は娘が疲れて落ちこんでいることを一瞬で見抜いてしまったり、久々に集まったので距離感がわからずにずけずけ言ってしまってから気まずくなったり、誰もが簡単に思い当る枕投げのようなあれこれ - 家族ってしみじみ変で怖い集団だと思う。

お話しはずっと一家の秘書をしているFenny (Bessie Carter) - 映画版での役名は”Penny”だった – とDoraとCharlesの息子Nicholas (Billy Howle)の、家族の誰もが見抜いて知っていた恋の上がったり下がったりをわかりやすく追っていって、たまんない。

でもそこがメインではなくて、クライマックスは、Nicholasが晩餐の最後に家族みんなに向かってやるGrand Toastのスピーチなの。 「家族へ - その親愛なるタコの触手から、私たちは決して逃れることはできないし、心の底では決して逃れたいなんて思っていないよ」 って。 これが”Dear Octopus”の正体なのだった。日本の家父長制だと樹木みたいに根を張って威張りたがるけど、生身のタコなのかー。ぬるぬる気持ち悪かったりするけど、生でも炭で焼いても、酢で〆てもおいしいやつ。だけどおっそろしいどろどろのホラーにもなりうるの。

Nicholas役、1938年の初演時は、John Gielgudが演じたのだって。Grand Toast、見事だっただろうなー。

 

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