2.12.2024

[film] American Fiction (2023)

2月5日、月曜日の晩、Picturehouse Centralで見ました。

原作はPercival Everettによる小説”Erasure” (2001)、監督はこれがFeatureデビューとなるCord Jefferson、オスカーにも5部門でノミネートされていて、日本でももうじき配信で見れる?

予告を見た時はなんか地味かも、と思ったのだが、おもしろい。最近の映画にはあんましない、ほのぼのとした – でもよく考えてみると殺伐としたかんじが後から。

Thelonious "Monk" Ellison (Jeffrey Wright)は、LAの大学でアメリカ文学を教えていて、自身も作家(でも売れない)なのだが、Flannery O'Connorの”Artificial nigger”について白板に書いて講義していると生徒から、その言葉を使うのは不快なのでやめてほしい、と文句をつけられ、いやいやそんなことを言ってもこれは... と返してもわかって貰えず、クレームは上まで届けられ、上からは少し休んだらどうだ? と言われて家族のいるボストンに戻ることにする。

ブックフェアに参加しても自分のコーナーはほんの少しで、「私たち」の「ストーリー」はいったいどこに?って訴えてスラングまみれの叙述に終始する人気作家Sintara (Issa Rae)のが盛況で喝采を浴びるのをあーあーって眺め、実家に戻れば母Agnes (Leslie Uggams)にはアルツハイマーの兆候が見られ、医者の妹Lisa (Tracee Ellis Ross)は突然倒れて亡くなってしまい、整形外科医をしている弟のCliff (Sterling K. Brown)は離婚後ドラッグとカジュアルセックスに溺れていて、要するに母のケアなども含めてこれからほぼひとりに来そうなのでどうしよう、になっている。支えになってくれそうなのは隣人の弁護士で彼の本の読者だというCoraline (Erika Alexander)くらい。

こんないろいろもあってやけくそモードのMonkは、酒に酔った勢いでSintaraがやっていたのと同様の犯罪まみれゲットーテイスト満載の小説 - “My Pafology”をげらげら笑いながら書きあげてこんなのどうだ!ってエージェントのArthur (John Ortiz)に叩きつけるように送るととんでもないアドバンスに映画化権の話までついてきて、頭痛腹痛が止まらなくなるのだが、著者は逃亡中の元囚人"Stagg R. Leigh"ということにして、さらに調子にのって(無理だと思って)タイトルを”Fuck”にしてやれ、って要求してみたりするのだが、契約破棄どころかぜんぶポジティブに取られてしまうのであきれる。

“Fuck”は問答無用のベストセラーになり、やがてMonkが選考委員を務める文学賞の候補にもなって、同じく選考委員であるSintaraや過半数以上を占める白人選考委員たちとの間で作品を巡る口論になるのだが、”Fuck”は圧倒的に優位で、なんかぜったいまちがっていないか? って。

ブラックコミュニティのなかで(に向けて)自分はなにをどう表現すべきなのか、というMonkがずっと考えてきた問題のほかに、こんなふうにでっちあげられた(アメリカン)フィクションをブラックである自身はどう受けとめるべきなのか、ということ – それを巧みに利用するSintaraや、別にいいと思ったというCoralineもいるし、いろいろあってよいはずだし、自分はなんでそれを許せないのか、という葛藤の他に、ボケて差別的なことを言ってしまう母とか、ゲイであることを受け容れてほしい、というCliffとか、物語全体がメタ・フィクションのようにして動いていく。クライマックスは文学賞の授賞式で、Stagg R. Leigh を逮捕すべくFBIが張りこむなか、この物語はどんな結末を迎えるのか…

もちろんこれは”American Fiction”に留まる話ではなくて、売るための名目で勝手なオーディエンス(って誰なのかそもそも)のいろんな要求に応えなければならない事情はすごくシリアスで悲惨な事件(日本でも最近あったよね)に繋がることだってあるのだが、この映画はそのふるまいの波が家族のありようまで揺らしにくる。なぜならそれは.. というところまで含めて。 Spike Leeがやったら(もうやってる?)おそらくぜんぜん別のテイストのものになっていたりして、などと思うと、この映画はMonkの小説が辿ったパスとは別のやり方で決着をつけようとしているようで、それってどういうことなのだろうか? と。(賢い?)

浜辺にひとりで立つJeffrey Wright、打ちのめされて頭をがっくりしたり、たそがれてしまう彼がほんとうにすばらしくよいので、それだけでも。

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