9.25.2019

[film] Ad Astra (2019)

21日、土曜日の晩、”Hustlers”の後、Picturehouse Centralで見ました。

待望のJames Grayの新作。これがScience Fictionであると聞いたのは5月初のBFIで、丁度これの音楽を終えたばかりだったMax Richterさんから。主演がBrad Pittだと日本公開も早い – 前作の”The Lost City of Z” (2016)だってBrad Pittは企画段階から関わっていたんだけど - なんかやらしいよね。

とてつもない何かが起こる、とかうんうん考えれば見えてくるものがある、とかそういう映画ではない - ネタばれするようなネタはない - のだがSFとして期待しているなにかをお抱えの方はここから先は読まないほうがよいかも。

宇宙飛行士であるRoy McBride (Brad Pitt)が軌道に近いところで仕事をしていると電磁障害みたいので宙に放り出されて怪我をして、ここのところずっとその障害が頻発して世界中がパニックになっている、と。で、偉い人に呼び出されて、これの要因をたぐっていくと彼の父 - H. Clifford McBride (Tommy Lee Jones)が率いていた”Lima Project” - 16年前に海王星で消息が途絶えたまま – に行き当たった、彼はどうも生きているみたいなのだが、行ってみてきてくれないか、と。優秀な宇宙飛行士だった父の背中を見て育ち、自身も優秀な宇宙飛行士となったRoyはそれを引き受けて、ものすごく影の薄い妻 Eve (Liv Tyler)を置いてまず月に飛び立つ。月- 火星 – 海王星って三段跳び。

ここまでくらいは筋として事前に知っていて、”Space Cowboys” (2000)で月面まで吹っ飛ばされたTommy Leeがあの後も生きていたのかー、とか、それも”The Martian” (2015)みたいにこつこつサバイバルしていた、ていう話なのか、“Interstellar” (2014)みたいにぐるりと回って何かを伝えようとしているのか、たどり着いてみれば船内は”High Life” (2018) 状態になっていた、とか、あるいは着いてみたらソラリス的なあれが現れた、とか、いくらでも妄想は膨らんでいくのだったが、そのどれでもないしどれでもあるような、シンプルで、でもスケールのでっかい父と息子のお話だった。

別にこれ、ブルックリン近辺で、優秀な警官だった父が消息を絶ち、ブルックリン奥地のギャング組織となにかやっているらしい、と聞いた息子が捜査に乗りだし、困難を乗り越えてアジトを急襲してみると.. - “We Own the Night” (2007) みたいなかんじ - でもよくて、でもそれを宇宙に持ってきた意味はたぶんあって、顔と頭しかなくなってしまう、というあたりではないかしら。宇宙服で覆われて無重力で自由もなにもなくて、できることといったら彼方へ吹っ飛ばされるか自分が吹っ飛んでしまうか、至近距離での暴力か対話か、それくらいしかない。あとはAlien(s) になんかやってもらうか、だけどそれはなくて(ないという確信はあった)、だがしかし、未知の何かが突然現れることへの絶え間ない恐れ、は今作にも”The Lost City of Z”にもその底にあった。 父はこれらを恐れずに常に前を進む(よくもわるくも)、っていうのはあるか。

とにかく会いたくてもずっと会えなかった父と再会して、話をして、戻る、それだけなのだが、それぞれの表情、仕草とか顔の皺に頭の丸みとか、それを見つめる眼差しが軌跡としてずっと残る – それは親のいる誰もが経験するかもしれない物語で – ほんと残っているのはそこだけで、海王星まで行ってその像を摑まえる、残すというのがよいの。 そういう骨組みのせいか、宇宙船の内外も宇宙服も昭和くらいのクラシックなかんじ(未来感ゼロ)で、そこに来るまでに銃撃とか裏切りとかいろいろあるし、戻り方なんてほんとかよ、みたいなあれで、せっかく生還してもLiv Tylerはちっとも嬉しそうには見えないけど、でもいろいろ決着はついた、のだろうか。

Brad Pittの、”Once Upon .. “と比べたらカケラもない威勢のなさ、診断AIでかろうじて正気を保つしょぼくれたわんこの目、Tommy Lee Jonesの更にしおしおに枯れた修道士の姿、彼の仕事仲間だったというDonald Sutherlandの貫禄だけあるけど空っぽの胡散臭さ、こんな(オトコ)連中がのさばる宇宙に未来なんてあるもんか。

それにしても月のステーションにはVirgin Atlanticが就航していて、SubwayがあってYoshinoyaがあってHudson Newsまであるんだねえ。TSAはここでも偉そうなのかしら?(地続き)

そして、またしても彼方に飛んでいってしまったTommy Lee Jonesは、やはり同じように宇宙を彷徨っていたGeorge Clooneyとどこかでぶつかって、ふたりでコーヒーを飲むんだよ。

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