9.03.2019

[film] The Souvenir (2019)

8月31日の夕方、”Pain and Glory”に続けてCurzonのBloomsburyで見ました。ここの一番でっかいスクリーン(Renoirっていう名前)がとにかくゆったりできて好きで、一日じゅうでもいられる。

Joanna Hoggによる自身の80年代を題材にした作品で、今年のサンダンスではWorld Cinema Dramatic部門でGrand Jury Prizeを受賞、アメリカではA24が配給し、Executive ProducerにはMartin Scorseseの名前もある。

なのだが大作の感じがまったくないものすごく地味な120分間で、でもめちゃくちゃおもしろいのでこれはなんなのだろう、というのをまだ考えている。できればもう一回見たい。

映画学校に通うJulie (Honor Swinton Byrne) は、母と小さな男の子と寂れていく町をテーマにしたドキュメンタリーを撮りたいと企画を転がしていて、彼女のKnightsbridgeのフラット - 監督がかつて住んでいた部屋を忠実に再現したものだそう – には恋人のAnthony (Tom Burke)も暮らしていて、外交の仕事をしていると言う彼は、いつもよい服を着てよいレストランで食事して音楽の趣味はオペラで、Julieにはよいアドバイス(たぶん)をくれて、彼女は少し背伸びしながら彼についていく。

Norfolkの田舎にはJulieの母のRosalind (Tilda Swinton - Honor Swinton Byrneの実の母)がいて、映画製作のプロジェクトで機材を買ったりする(たぶんうそ)のでお金貸して、という相談の電話をして、母はあれこれ心配してくれつつとてもやさしい。

タイトルになっている”The Souvenir” (1776 -1778) はロンドンのWallace Collectionにあるフラゴナールの小さな絵で、AnthonyがJulieにこの絵のことを教えて、Julieは彼女なんか悲しそうね.. ていう。 (ここにあるフラゴナールの絵はどれもほんとによいの)

映画学校での実習や撮影のところ、実家に行っての母とのやりとりの他は、ほぼJulieのフラットで進んでいって、タイプを叩いていたり、友人たちを呼んで議論していたり、Anthonyとじゃれたり議論したり喧嘩したり、お茶の間で進行していくやりとり、その窓から見える風景、聞こえる音がすべてのような。

あとはふたりでヴェネツィアに旅行に行ったり(Ernest Temple Thurstonの”The City of Beautiful Nonsense” (1909)のページをめくるシーン)、公園でピクニックしたり、これらのシーンの絵画のような美しさ。

そして映画撮影のシーンのいくつかときたらまるで”Passion” (1982)のような、Derek Jarmanのような – と言ったら誉めすぎだろうか。

これらの反対側でAnthonyは明らかにドラッグにはまって荒れていって、帰ると部屋に変なヒトがいたり、夜中に血まみれで叫んでいたり、ずっと帰ってこなかったり、何度かの議論ともう出ていって! の離別 が繰り返されて、やがて。

でもこれは悲劇を乗り越える話でも少し大人になる話でも無垢を貫く話でもなく、他者が置いていったもの (The Souvenir)を慈しみを込めて見つめる、それを通して自分のいまいる場所と時間を認識する、どこまでもそういう態度を貫こうとする宣言、というか。 「結ぼれ」の反対側にあるなにか、というか。

Anthonyは階級意識まるだしの傲慢な高慢ちきで、どこがよいのかちっともわからない典型的な英国のヤな野郎なのだが、例えば彼を『嵐が丘』とか『ジェイン・エア』とか、あるいはオースティンのいくつかにでてくるような野蛮なバカ男共に並べることもできるだろうし、あるいは80年代初に(東京にも)掃いて捨てるほどいた、でかいことばかり言ってなにもしないあほんだら共、と比べることもできるのだろうが、肝心なのは彼ら – JulieとAnthonyが - そうやって過ごしていた日々がほんとうに的確に誠実に(言ってよければ)美しく切り取られていることで、そこで初めて”The Souvenir”というタイトル、あの絵、そしてラストのこちらに向けられたJulieの眼差しが迫ってくる。

少なくとも自分にとってはそう - 衝撃的なくらいにそうで、これが80年代を当時の我々が60年代に対して思っていたように思っているであろうもう少し若い世代の子達にどう見えるのか、はわからない。べつにわからなくていいのか。(ここで岡崎京子の名前をだそうかどうしようか)

音楽はJulieの聴いていた当時のやつとAnthonyの聴くオペラが混在していて、The FallやJoe Jacksonが聴こえてくるし、Robert Wyattの”Shipbuilding”がかかり、The Pretendersの"2000 Miles"がかかる – 83年のクリスマスだねえ.. (嘆)- 窓辺にいたJulieがびっくりする突然の爆発音は83年12月のIRAによるHarrods爆破事件のものなのか。
(爆破は別として、83年頃、英国にどれだけ憧れていたか行きたかったことか)

監督のJoanna HoggさんとTilda Swintonさんは10代の頃からの親友だそうで、監督のQ&Aとか行っておけばよかったなー。

エンドロールの最後に”The Souvenir: 2”がくるよ(2020年)、と出て場内がざわめく。いったい何をするつもりなのか...
 

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