7.04.2017

[film] Sage femme (2017)

口内炎がみっつあって、とてもつらい。

2日、日曜日の昼、CurzonのBloomsburyで見ました。 メンバーだと£5だっていうから。
英語題は"The Midwife" - 「助産婦」 
こないだのフランス映画祭のオープニングだったやつ、ね?

病院でベテランの助産婦をしているClaire (Catherine Frot) がいて、仕事の腕には自信があるものの病院は彼女のいる産院を切ろうとしていて、そういうのの交渉もあって少し疲れてきている。
そういうときにBéatrice Sobolevski (Catherine Deneuve) から電話が入って、最初はなによあんた? みたいな感じだったのだが会うことにして、そしたらそこでの会話からBéatriceは長年音信不通になっていたClaireの母で、なぜつんけん仲悪いかというとBéatrice が家を捨てた後で、父が自殺してしまったからで(Béatriceはそのことを知らなかった)、突然彼女が連絡を取ってきたわけは脳のガンで手術しなきゃいけないとか、あまり長くなさそうなのがわかったからだという。
かつての母がしでかしたことに対する治まらない憤りと、でも突然現れた母の変わらないところ、変わってしまったところに対する戸惑い、そんな病人を放っておけるわけないでしょ、という溜息と、いろんなところでClairは揺れ始めて、それだけじゃなくて息子のSimone (Quentin Dolmaire)がガールフレンドを連れてきたと思ったら彼女は妊娠しているとかいうし、医大をやめて助産婦になりたいとかいうし、なれなれしく菜園で声を掛けてくるむさいおやじ (Olivier Gourmet) は誰? とか、もちろん自分の仕事がどうなるかもわからないのだし、となにもかもがなんでよりによって! なの。

というくそ真面目なClaireに対して放蕩ばばあの帰還、としか言いようがないBéatriceは豪快な魔女で、酒は飲むはタバコは吸うは食事は制限しないわ金なくなったら博打で稼いでくるわ、Claireの服装や態度についてぶうぶう言うわ、自分の生まれについても嘘ついてるわ、でもところどころで具合悪くしてぜいぜい言っているのでClaireは面倒みないわけにはいかず、そうしているうちにだんだん打ち解けてくる。 赦す赦せないでいうと、赦せないのだが、なにかが満ちてくるようなかんじで彼女の過去、自身の過去、そしてそこに連なる現在が被さってきて、そのでっかい布団に包まっていけないってことはないよね、って。

なにか決定的なきっかけや瞬間があるわけではなくて、画面はむしろその瞬間や兆しを周到に回避しつつ、それぞれの老い(や生)と向き合わざるを得なくなったふたりの女性の葛藤にやさしく寄り添っている。無理やりなにかを促したり押したり引いたり、ではなく、助産婦みたいに声を掛けて少し調整したりさすったり、そうしながらやがて出てくる何かをじっと待っているかのような。
かと言って映画がゆるゆる締まりない、というわけではなくて、逆に息をひそめて見守ってしまうようなかんじで。
物置から出てきた亡くなった父/夫のスライドを見ながらふたりでべそべそ泣いていると部屋の扉が開いて現れたSimon - スライドの亡夫にそっくり - にびっくりしてうろたえてキスしちゃうBéatriceとか、笑えるところもいっぱいある。

Catherine Deneuveのふわふわ、でもどっしりしているわけではない不思議な存在感 - 汝にすべてを与えるしすべてを赦す、だからそちらもすべてを赦して与えよ、ほっとけ、みたいな超然とした老猫の凄味 - "A Christmas Tale” (2008)もそんなだったかしら? - そして、同系の猫なのにすべてに予防線と結界を張っていないと息ができなくなってしまうClaireと。 このふたりの女優(魂 - 使いたくない言葉だねえ)のぶつかりあいと化学変化がすばらしい。 Catherine Frotて、"Marguerite" (2015)もそうだったけど、外殻を固めてつくるのがすごくうまくて、しかもその殻のもろさを始めから堂々と晒してしまう。

ラストの流しかたもよいの。 野良猫がすうっといなくなるような、ちょっと寂しいけど力強さもあって。

いっつも言ってるけど、邦題に「幸せ」とか「讃歌」とか「絆」とか付けるのぜったい禁止ね。


さっき、”The Big Sick”を見てきたの。 いやーすんばらしいわ。

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