7.18.2017

[film] The Thing (1982)

15日の土曜日の晩、Prince Charlesで見ました。

もうなに言われたって驚かない - 35th Anniversaryだってさ。
(ちょっとだけ揺れたのはこないだやった"Withnail & I"の30th Anniversaryと、もうじきやる"Spice World"の20th Anniversary..)

Howard Hawksの"The Thing from Another World" (1951) はおお昔に見たけど殆ど覚えていない。

82年、南極のアメリカの測候所で、ヘリがハスキーを狙って延々と追っかけるのが冒頭で、銃を撃ちまくるのに当たらなくて犬は観測所の小屋に入れられて追っかけていたほうはそこの隊員にヘリもろとも吹っ飛ばされて、なんだこれ? 状態の冒頭。

その連中が拠点にしていた観測所に行ってみると焼き払われていて焼け跡からF. ベーコンの絵みたいなぐにゃぐにゃの肉の塊が見つかったので自分たちのところに持ち帰る。(.. 持ち帰るなって)

戻ってみるとやはりさっきのわんわん(こいつ、すごく巧いの演技)の背中が開いてなんかしゅるしゅる湧いてきたり大変なことになっていって、いろいろみんなで調べて考えあわせてみると、そいつ(The Thing)は生き物にこっそり寄生してそいつになりきってあるとき突然肉の殻をやぶって出てきたりするらしい、で、するってーと既に我々のあいだにも既にそいつは... と全員が疑心暗鬼になって、ここからそいつを脱出させないために乗り物とかもぜんぶ潰しちゃう奴なんかも出てくるの。 で、思ったとおりにひとりまたひとりとやられていって、どうすんだよこれ、になる。

無線は全く通じない、隣にいる奴も全く信じることができない、生き残れたとしてもここは南極で、事の顛末を説明したって納得してもらえるとも思えない。"The Thing from Another World"は、ここを"Another World"に変えてしまって、やがてはヒトではない"The Thing"しか残らないようにしてしまう。

でもこの状況って、ちょっと考えてみれば南極でなくても、「そいつ」がどこから来ようが、「そいつ」にやられなくてたってじゅうぶん起こりうるし、それっぽい奴いる(→ "They Live") - そこらじゅうにわらわらいるよね + わらわらいすぎて誰もなにも信じられない状況 - このふたつが恐怖の渦を巻き起こす - がやってきたとき、ひとはなにを拠り所にして、どういう行動を起こすべきなのか、ていうのを具体的に教えてくれる極めて政治的で倫理的で教育的な映画なの。そしてそれを問答無用で(たぶんあんま考えずに)実行してしまうMacReady (Kurt Russell) の軽さとかっこよさ、John Carpenter の映画がいつもすごくて痺れるのは、ここのところがまったく揺るがないからなの。 どんな状況にあっても主人公はやるべきことがなんなのかを感覚的にわかっていて、それをなんの躊躇もなく極めて軽薄にやっちゃうの。 かっこいいっていうのはこういうこと。 だからJohn Carpenterの映画って、すごく怖いのだけど、あの黒くてぶっとい電子音が鳴りだすと、魂が立ちあがってくるかんじがする。

それとおなじかんじを与えてくれたのが(or それを彼に伝授したのが)George A. Romeroさんで、彼の映画から受ける印象も同様の力強さなのだった。 2010年の5月、BAMで"Survival of the Dead" (2009)の上映後の&Aに現れたとき、学校の先生のような暖かくてやさしい語り口にびっくりしたものだったが、そういうひとだったのよね。たんにゾンビの恐ろしさを描くだけでなく、行き場を失って淘汰されていくゾンビの視点も、そこにはあった。

ご冥福をお祈りします。 おっかなくて泣いちゃうかもだけど、回顧上映、どこかであるのであればがんばって通う。

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