年明け最初のいっぽんは旧作とか古典を見ることにしているので、今年も当然のようにシネマヴェーラの特集「映画史上の名作12」に通って、キートンみてワイルダーみてホークスみてルビッチみてフォードみて、とかやっていて、それはそれでぜんぜん楽しいし幸せでよいのだけど、いまシネコンでかかっている新作でこれっぽっちも見たいのがない、ていうのは問題じゃないのか、と少しおもう。 いいけどさ。
というわけで2日の午後に見たやつ2つ。
Steamboat Bill, Jr. (1928) 「キートンの蒸気船」
ミシシッピでぽんこつ蒸気船屋をやっている頑固おやじがいて、そこに大金持ちがでっかい最新鋭の蒸気船を引き連れてやってきたので、けっ、とか険悪になっているところに東の大学に行っていた息子(キートン)が戻ってくるの。 立派な一人前のオトコになっていることを期待したのに、ちびでなよなよでいけてなくてパパはがっかり、ちょうど金持ちの娘も戻っていて若者ふたりはよいかんじになるのだが、親同士は喧嘩ばっかしで、そのうちキートンのパパは牢屋に入れられてキートンは助けに向かうのだが、そこにばかでかいハリケーンがやってきて大変なことになるの。
ほうれん草なしでポパイみたいに大活躍する - しかも実写でしかもスタントなし - キートンのことは映画史でも有名だからよいわね。 漫画みたいなことを漫画みたいにクールにクリアしていくのであんぐりなの。
偶然だろうが、おなじ1928年の“The Wind”で同じようにかわいそうなリリアン・ギッシュを襲ったすさまじい砂嵐と並ぶ、こっちは台風の暴風雨の風、しかもキートンはそれに立ち向かってへっちゃらで、しかも勝っちゃうの。 かっこいいねえ。
わたしはバスター・キートンとハロルド・ロイドがいればこの世界はなんとかなる、保つことができる、とおおまじで信じている。 いまの地球に必要なのはMarvelのヒーローなんかじゃないの、キートンとロイドなんだよ。
Double Indemnity (1944) 「深夜の告白」
正月よりは暮れに見る映画 - 白状して清算だから - のような気がしないでもなかったが、こんどこそはうまくやるんだ、の願いを込める意味で正月でもいいか、と。
これ、フィルムノワールの特集があると必ずかかるやつなので、これまで何回も見ているのだが、わたくしの場合、ノワールって何回見てもどんな話しだったか、ノワールの彼方に消えてしまうのでこれもちっとも憶えてないのだった。 お得、と思いたければ思うの。
最初に保険の営業をやっているネフ(Fred MacMurray)が深夜のオフィスに息たえだえでやってきて録員装置のスイッチを入れ、調査員で上司のキーズ(Edward G. Robinson)に向けた報告を口述するところから始まる。
なんかやばいことをしてネフはこんなふうになっているんだな、というのはわかって、そこから彼の回想でどうしてこんなんなってしまったか、が謎解きのように明らかにされるの。
ネフが裕福な人妻のフィリス(Barbara Stanwyck)のところに自動車保険の更新の話しをしにいったら色仕掛け練り込みで別の相談 - 夫の保険金殺人を持ちかけられ、その計画作りにはまっていって、完璧な計画 - しかも倍額補償(double indemnity)だぜ、てなんとか実行に移して、うまく行ったかに見えたのだが、はじめのうちあれは事故、と言っていたキーズも何かに気付いたようで身動きが取れなくなっていく。
成績も悪くない優秀な営業マンだった彼がなんでそんなことに? は単純に性悪ファム・ファタールであるフィリスの存在だけではなく、彼自身のプライドとかキーズに対する意地とかいろいろ単純ではなくて、そういうのもぜんぶ含めた倍額で、確かに高くついちゃったねえ、の生々しさはなかなかなのだが、ちょっと平坦でわかり易すぎかも、と意地悪くいうこともできて、この辺がチャンドラーがワイルダーのことをぼろくそに言っていたとこなのかも。
でもチャンドラーがカメオで出ていたりもするので、村上訳でチャンドラーを知ったひとも見てみよう。
1.11.2015
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