11.26.2012

[film] DUBHOUSE:物質試行52 (2012)

16日の金曜日の晩、新宿の七里圭の特集上映の最終日に見ました。短編みっつ。

最初が『夢で逢えたら』(2004)。
がらんとしたバスの中、男の子と女の子の出会いと、ふたりの暮らしが、声を一切欠いた世界のなかで描かれる。 生活音はふつうに聞こえるのだが、声だけが聞こえてこない。でも映画のなかで口をぱくぱくして会話が成立しているらしいことから、声だけがこちらに聞こえてこない、のか、ぱくぱくだけでもコミュニケーションが成立してしまう世界を描いているのかのどちらか、と思われる。

『眠り姫』が目に見える確かさを一切欠いた現実(気配のみ)を描いていたのに対して、『夢で逢えたら』は、隅々までクリアに描かれた夢(相手の声は届かなくてもわかる)を描いているような。

一見、異様な世界のようで、それは口内炎とか耳鳴りとかものもらいとか偏頭痛とか、少しだけ自由を欠いたいつもの皮膚のまわり、のことでもあるのだな、というのがわかってくる。 あるいはそこに、性差、というのを持ちこむのはありなのかどうか、とか。

映画は、我々が生きている世界(夢も妄想も現実もひっくるめて)に対して、なにでありうるのか、どこまでを描くことができるのか、という問いに対する極めて真摯なアプローチであり、こういう試みなしに、「リアル」とか垂れ流してはいけないのだし、こういう試みを経たあとではじめて、「夢で逢いましょう」ていうことも言えるのだね、とおもった。

次が、『Aspen』(2010)。 クラムボンの同名曲のPVを、ボツになったバージョンと公開されたバージョン続けて。 クラムボン、ちゃんと聴いたのは10年ぶりくらいかも。

どちらも、ダンサーの黒田育世さんが曲にあわせて野外で踊っているところを16mmのワンカット、一発録りで撮ったもの。 ボツになったほうの「一本道編」のが圧倒的にすばらしいと思ったのだが、ボツになった理由を後のトークで聞いてびっくり。
「一本道編」のほうだと、You Tubeの画面では小さすぎて、最初のほうなにが映っているかわからないから、だと。

PVの世界なんてそういうもんなのかも知れないが、でも小さくてわかんないから、で排除していったらなんも残らなくなっちゃうよ。
映画とか音楽の世界にわかりやすさを求めるのって、なんなの? そんなことしてなにが楽しいの?


最後が、最新作である『DUBHOUSE:物質試行52』 (2012)。

建築家の鈴木了二の連作としてDUBHOUSE:物質試行というのがあるらしく、50番が下田に作られた真四角の住宅(通称シモダブ)で、51番がそれを横に引き伸ばした国立近代美術館でのインスタレーション(通称モマダブ)で、52番がそれを映画に撮影してフィルムに現像したものである、と。

DUBHOUSEのDUBは、(われわれが80年代に浴びるように聴いてた)音楽のDUBのことで、いろんなエフェクトを掛けて原曲を圧縮したり希釈したり撹拌したりして再構成する、そういうやつで、では、建築におけるDUBの原曲に相当するものって、なに? とか。

鈴木了二さんは(旧)日仏学院で何度か上映後のトークを聞いたことがあって、そのたびに思ったのは(本人も言っていた気がするが)、映画について語ることと、建築について語ることはとても似ていて(映画と建築が似ている、というのではないよ)、その相似はわれわれが世界や社会との関わり(ポジもネガも)を考える際にとっても有効で、そんななか、ここでののKeyになるのが冒頭に字幕で示された「建築は、闇をつくる力がある。」という一行だったのだった。 或いは「闇を展示する」ということ。

50番から51番にDUBられる過程、あるいは51番から52番にDUBられる過程で再構成されたものは果たして「闇」だったのか。 51番にあった「闇」と、52番でフィルムに落とされた「闇」は、どれくらい同じなのか違うのか、違うとしたら、なにが違うのか。
観念の遊びみたいに見えるかもしれないが、人工物を作るという意味での「アート」においてこういうのは最低限おさえないといけないことだと思うの。

上映後、監督と短編にColoristとして参加している牧野貴さんとのトークは、ものすごくおもしろかった。
爆音3Dの直後だったこともあり、改めて、すごいことやってるのね、と。

話にも出てきた、日本のデジタル化市場の圧力の異様さ、には強く同意した。
米国だってもうちょっと慎重だし、少なくとも上映に関してはデジタルとフィルムの共存を前提とした流れが普通にある。 日本だけだよ、ガキみたいにはしゃいでるのは。

で、そういうしょうもないせめぎ合いのなかで、改めて映画とはなにか、という問いが前面に出てくるのね。

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