11.29.2012

[film] Tyrannosaur (2011)

18日、ホン・サンスの後に少し歩いていって、見ました。
『思秋期』なんてタイトルになっていたもんだから気づかなかった。あやうく見逃すところだったわ。

Joseph (Peter Mullan)は英国の郊外で一人暮らししている老人で、慢性の酒飲みで癇癪もちで、飲んだあとのむしゃくしゃで自分の犬を蹴り殺しちゃったり、バーで若者をぶんなぐったら返り討ちにあったり、そんな自分がどうしようもなく嫌になって、ある日街のリサイクルショップに逃げこむ。たまたまそこにいたのがボランティアで店員をやっているHannah (Olivia Colman)で、クリスチャンの彼女は、ぼろぼろの彼のために祈ってくれるのだが、彼女の住んでいるとこが高級なエリアだったりしたので、けっ、てJosephは出ていくの。

でも、彼女は彼女で夫のDVに苦しんでて内面からっぽのぼろぼろで、そういうふたりがどちらからともなく、ぎこちなく近づいていくおはなし。

ほんとに擦り切れてて、堕ちるとこまで堕ちているので神も救いも絆も信じてなくて、友達は死んでいくばかりだし、"Gran Trino"みたいな義憤にかられてなんかぶちまけることもできない、ほんとに暗く荒んだ陰惨な魂のおはなしなのであるが、ふたりが同じ画面にいるだけで、なんかいいの。 

"Tyrannosaur"ていうのは5年前に死んだというJosephの妻のあだなで、大食らいで階段を上るだけで"Jurassic Park"の恐竜みたいにコップの水の表面が震えた、それがおかしくてそう呼んでいたのだが、でもいなくなるとさあ... ていう。

そういう、まわりに人がいてもうっとおしいだけだし、ひとりで構うもんか、けどいないと... みたいに、ぎゅーっと内側に固まって放心した穴、かさぶた、になった老いたひとの状態がきちんと描かれていて、それを「思秋期」と呼ぶのはどうかと思うけど(叙情みたいのはゼロよ)、映画はとてもよくて、なんでいいのかうまく説明できないのだが、いいの。

米国映画だともっとジャンクに堕ちるか、思いっきり暴力のほうに振れるかしそうなところをJosephのひんやりざらりとした石頭とHannahの腫れあがった顔の並びの不細工な佇まいに寄せてみる。 それがなんであんなに。

ひとをぶんなぐるのも含めて、音はほんとにすごくて身を竦めてしまう。

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