9.11.2026

[film] The Odyssey (2026)

9月5日、土曜日の晩、109シネマズの二子玉川で見ました。

先行上映とか偉そうに謳っているが、グローバルでみたら断トツの後行で恥ずかしいばかり。
原作はホメロスの叙事詩。監督はChristopher Nolan、脚本もChristopher Nolan(とホメロス)。撮影はHoyte van Hoytema。

全編IMAXで撮影されて、上映/再現もIMAX 70mmが最適なのだろうが、最適な上映設備を選んでしまうような映画、そういうのがあってもよいのだろうし、そうした理由についてNolan自身がいくらでも説明しているようだが、ここまでくると遊園地の世界だよね。体験至上の罠。お金は使って貰いますよって。

冒頭、吟遊詩人のようなTravis Scottがラップの強さでいいか「ストーリー」ってのはこういうもんだヤツの話をとにかく聞いてみ、ってオデュッセウスとトロイア戦争について語り始める。この調子でおらおらって最後まで行ってくれるかと思ったのだが、どこかで飲みこまれてしまったような。

王の中の王アガメムノン (Benny Safdie)によってイタカからトロイア戦争に派遣されたオデュッセウス(Matt Damon)が妻ペネロペ(Anne Hathaway)に自分が死んだら再婚するように言い残して出ていって、彼女と息子のテレマコス(Tom Holland)の館にはむさい求婚者とかよからぬ企みを持つ連中が詰めかけて毎晩飲めや歌えを延々繰り広げている。

映画はオデュッセウスが前線に立ったトロイア戦争に向かって10年、だらだらしんみり過ごしてイタカに帰還するまでの10年、計20年の旅と、その間待ち続けていたペネロペの周辺と、パパを待ちきれずに探しに出たテレマコスの3つくらいの間を時間の前後無視で行ったり来たりしていく。誰もが知るエピソードが多いのでこれがあれか、って思ったり、その辺なんも考えずに見ていてもどかーんとでっかいのが来たりするので、その辺の混乱はあまり気にならない。戦乱の世なのでどうせ混乱まみれということでよいのか。そんなふうにほぼ3時間はあっという間に過ぎてしまう。アトラクションだから。

怪物はポリュフェモスとかライストリュゴネスとか見てすぐわかるのだが、神々は女神アテナ(Zendaya)もニンフのカリュプソ(Charlize Theron)も魔女キルケ(Samantha Morton)も、人間とあまり見分けがつかない世界のすぐ横にいて、ゼウスの法が、とか言われてもそんな重く響かないし誰も聞いてない。会社の偉い人が社内規定とかコンプラについてなんか言ってるよ、くらいのかんじかも。

クライマックスはオデュッセウスが乞食に身をやつして宮殿に戻って、狡猾なアンティノオス(Robert Pattinson)などを懲らしめてペネロペとの再会を果たすシーン、なのだろうが、”Interstellar” (2014)でのふたりの逆のを思い浮かべてしまったり(とにかくぜんぜんよかったね、の感動が来ない)、そんなに盛りあがらなくて、やはりトロイの木馬とか怪物とのバトルとか、そういう戦乱あれこれを描いたアクションドラマ、に見えてしまう。

IMAXででっかく重々しく描かれるぺったんこな海の表面と、その縁でぎりぎりまでひたすら耐えて待って最後に爆心地に向かって実際にふっとんで粉になって消える兵士、という構図(例えば”Dunkirk” (2017))はNolan映画定番のスペクタクルで、でもこの地味なかんじをスペクタクルと言ってよいのかはちょっと考える。

この叙事詩は人間の愚かさとか狡さに対する戒めとしてずっとあって、シノン(Elliot Page)に対する後悔とかオデュッセウスの苦渋も多少は描かれるものの、基本的にはこいつの表に出てこない傲慢や狡猾さを、故郷に戻るとか家族との再会とかで美化してしまっていないか。冒頭の「ストーリー」賛美もその流れのなかで見ると、これって圧政者が金を撒いて進めるプロパガンダの手法と同じようなものになっていないか、と(そこまで狙っている?)

もちろん性格が悪くても頭はよさそうなNolanはこの辺を十分わかっていて、音楽は重心低めでドラマチックなところをできる限り抑えて、「本当に起こったこと」のような地続きの低空を慎重に這ってくる。 ロケ地となった西サハラの問題や外部の者(移民)への歓待など、眺めてふーんとなる箇所は結構あるかも。

でも、これらぜんぶを俯瞰して、ああ人類はこんなところまで来てしまったのか、って嘆きたいのであれば、IMAXに行くよりも今のホワイトハウスを見ればじゅうぶん、ではある。


あの日から25年。まだぜんぜん過去の事件になってくれない。あの粉塵の匂い、どんよりした通りの向こう、戦闘機の音…  

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