11.08.2023

[film] Los delincuentes (2023)

10月25日、水曜日の晩、東京国際フィルムフェスティバル(TIFF)をやっているTohoシネマズ日比谷シャンテで見ました。
邦題は『犯罪者たち』、英語題は”The Delinquents”。180分。作・監督はアルゼンチンのRodrigo Moreno。カンヌのある視点部門で紹介された作品。 すごくおもしろい。

そういえば昨年のTIFFには”Pacification” (2022)があって、こういう長すぎるしよくわかんなそうだから絶対一般公開をされなさそうな - けどおもしろいのに出会う、という楽しみが映画祭にはある。のだがこの映画祭ってほんと相変わらず… あんな代理店とスポンサーまみれの映画祭なんて胸糞悪くなるばかりだからやめちゃえ、ってずーっと思っている – けど映画好きは映画見れるなら、って文句を言いながらチケットを取ってしまうというよくないサイクル。(文句書きだしたら止まらなくなるのでやめる。どうせ絶対に「改善」なんてされないから)。

そもそものタイトルがそうだし、銀行強盗が最初に起こるし、ポスターに出ている男たちの人相は悪そうだし、どう考えてもノワールぽい暗い展開でくると思った、のにそっちには行かない – どちらかというと昼間の映画。英国Guardian紙はPedro Almodóvar + Eric Rohmerって書いていたがそんなかんじのすごく変なやつ。

ブエノスアイレスの銀行でずっと窓口業務をやってきたMoran (Daniel Elías)は日々の仕事にうんざりしていて、でもそれなりに長く勤務して信頼はされているので現金の運搬も任されている。そこで託された現金を隠してリュックサックにいれて外に持ち出し、やはりうだつのあがらない同僚のRomán (Esteban Bigliardi)にそれを託して、自分は自首する。Moranの言うことにゃ刑期は3年半、それだけ我慢すれば、出所後は盗んだお金で好きに遊んで暮らせるはずだ、死ぬまで毎日毎日会社で奴隷仕事させられるより断然ましだろ? って。そして、もし現金に変なことしたら獄中でぜんぶばらしておまえの人生を台無しにしてやるから、ってRománには脅す。

盗られた銀行側 - ボスがGermán De Silva - はMoranが自首したのはよいとしても現金がどこにいったのか、行内のどこかに仲間がいるはず、って社員の尋問や首切りを始めて、お金を置いていかれたRománは自分のアパートでの萎れた生活 – 妻子がいて愛人もいる - を振り返りつつ、うなだれてぜえぜえ息を切らしながら田舎の崖があるところに金を隠しにいく – この辺までが第一部。

崖の岩の下に金を隠したRománは湖の畔で寛いでいる男1人女2人と出会い、彼らに誘われるままに一緒に映画を撮ったりして過ごすうち、そのなかのNorma (Margarita Molfino)と親しくなって、町にやってきた彼女と会ったり - 彼はもう銀行も辞めて家も出ているので自由な時間を過ごすのだが、というのと、やがて出所したMoranがお金が埋めておいた山の方に向かうと..

都市の銀行に勤めてはいても牢獄の壁に向かいあうような日々を送っている彼らが強盗に成功して、自首して牢屋に入った方も – おっかない牢名主も同じくGermán De Silvaが演じている - 牢屋の外でお金を隠しにいく方も、当初想定していたような自由は得られないままでどんよりと頭を抱える第一部から、田舎を舞台にした飲んで歌って映画を撮っての自由で気儘な生活に飛びこむ第二部への転調があって、そのきらきらした楽園の世界に無邪気に馴染めるほど子供ではないので、これはほんとうに望んでいた生活と言えるのか、等を過去や足元を踏みしめながら考える、そういう方に思索を向かわせるドラマになっていて、この点で後半の田園パートは中年(犯罪者)版ロメール/ルノワール、のような変な絵になる。MoranとRomán、互いの名前がアナグラムになっているふたりは鏡を見るようにそれぞれの姿を認めて、最後に同じ女性とぶつかってなにを思うのか。これが果たして求めていたなにか - 自由なのか? など。

レコード盤から何度か流れる”Pappo's Blues” (1971)のごりごりしつこいかんじがまたなんとも。結局70年代じじいの夢なのか? とか。

それにしても、3年半牢獄で我慢して、出たあとの老後が安泰になるのだとしたら、こういうの考えてしまうかも。どうせ年金なんてないのだし。 盗んだ金が見つからない状態で本当に3年半で出てこれるのか、というのはあるにせよ。


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