11.29.2023

[film] Gaza (2019)

11月23日、祝日の午前にイメージフォーラムで見ました。邦題は『ガザ 素顔の日常』。
監督はアイルランドのGarry KeaneとAndrew McConnell。

これ、2019年にロンドンで見ていたのを忘れていて、始まってからああこれはー、って思いだす。同年のサンダンスでプレミアされて、オスカーのInternational部門でアイルランドからの候補としてリストされたものの選ばれなかった、と。自分も2019年のベストのなかに入れてるじゃん。

邦題通り、ガザに暮らすいろんな人々の日々の「素顔の日常」を追っているだけ。しかしその「日常」が我々の普段のそれとはどれほどにかけ離れ隔たった過酷なものであるかを、しかしそんなふうであっても、現在がどれだけ政治的に痛めつけられたものであったとしても、彼らが淡々と夢や理想や想いを、こうなってしまう前の幸福だった過去を語る姿のなかに、ほんの少しの希望を – そんなのは第三者が眺めて思うだけの図々しいものであることを十分承知のうえで見て、そんな彼らの生に思いを廻らすことができた、気がした。2019年の8月には。

でも今回見返したらとても辛くて悲しくて。イスラエルの築いた壁に向かってずっと石を投げたり火を焚いたりしていた - 仕事もない他にすることもない若者たちは、そうやって撃たれて怪我をした若者たちをひたすら病院に運んでいた、いつまでも家に帰ることができないでいた救急隊員のおじさんは、船乗りになりたいって言っていたあの子は、将来の夢を語っていた少女は、無事なのだろうか? 「無事」なんて言葉を使える状態ではないくらいに無惨な映像が次々に流れてくる。病院も、学校も、図書館も、すべてが瓦礫に化そうとしていて、逃げ場を塞がれた状態で、そのまま穴に落ちるように子供たちが沢山傷ついて殺されて埋められていて、さらにこれらは互いの情報操作や扇動や交換の道具として使われるばかりで、解決に向かおうとしているようには思えない。「解決」とかじゃなくて、とにかく誰も殺さないで、壊さないで – それすらもできない、止められないのがやりきれない。

2019年に確認されていた - そもそも確認てなんだよ - 悲惨が、その頃には想像もしていなかったような更に酷い状態となって彼らを潰しに、皆殺しに、殲滅にかかっていることを思い知る絶望 – そのため(だけ)であっても見る価値はあると思う。なんで4年前の時点で - それを言うなら75年前の時点で、行動を起こせなかったのだろう、こんなふうに積まれていくのもまた「歴史」と呼ぶのなら学問とか人文とかなんのためにあるのだろうか、って。


Stranizza d'amuri (2023)

同じ23日の午後、”Gaza”を見たあと、こんなに落ちこんではよくないもっと明るいのを見なければ、って見たのだがちっとも明るいやつじゃなかった…  邦題は『シチリア・サマー』、英語題は”Fireworks”。 原題がどこから来たどういうものなのか、ちょっとわからず。
監督はこれが映画初監督となる俳優のGiuseppe Fiorello。

1980年にシチリアのGiarreで実際に起こったヘイト殺人事件を題材にしたもの。
82年、サッカーのワールドカップで湧くシチリアで、家族で打上げ花火師をやっているNino (Gabriele Pizzurro)と、隣の工場で修理工をしているGianni (Samuele Segreto)が知りあう。

母とふたりで暮らすGianniは近所のバーの客たちからゲイだ、ってかわるがわる陰湿にからかわれたり虐められたりしていて、母は粗暴な工場長と関係をもって生活面の弱みを握られているので行き場がなくて、石切り場でバイトしても続かなくて、客先にバイクを届けにいくところでNinoとぶつかったのをきっかけに近寄っていく。

はじめは喘息で具合のよくないNinoの父のかわりに花火の打ちあげを手伝って貰おう、ってGianniを誘って一緒に花火をどーんってやって、シチリアの夏の景色はとても美しいし花火もきれいだし、ふたりの笑顔も輝いているのに、なにかが奥のほうで捩れてうまくいかないままに…

イタリアの田舎の、みんながサッカーに熱中してばかりの熱の裏側でじわじわと生えて育っていった悪意や嫌悪、そこの描写は控えめにして、緑と青の眩しい夏を楽しもうとしたふたりの短かった青春にフォーカスしている。

そこは別によいのだが、バーにいた変な連中とか怪しい影のありようをそれなりの形にできていないのが勿体ないのと、真ん中のふたりの関係が短いから故か深みとか切なさがなさすぎで、比べられるものではないと思うものの、こないだの“Le otto montagne” (2022) - The Eight Mountains -『帰れない山』なんかを見てしまうと、なんか芯となるものがほしかったかも。

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