11.05.2023

[film] The Killer (2023)

10月27日、金曜日の晩、新宿シネマートのでっかいとこで見ました。 Netflixでもうじき見れるものだが、本作に関してはなんとしてもシアターじゃないと。

Alexis Nolentによるグラフィックノベルの原作を”Se7en” (1995)のAndrew Kevin Walkerが脚色して、監督はDavid Fincher、音楽にはTrent Reznor & Atticus Ross、Michael FassbenderがThe Smithsを聴いてばかりいる”The Killer”を演じるという、更にはTilda Swintonさまが”The Expert”、として出てくる、と、想像しただけでざわざわ背筋にくるやつ。なんでこれが配信なの?

全部で6パートからできていて、各パートはThe Killer (Michael Fassbender)が相対したり追いかけたり追い詰めたりしていく相手単位に構成されている。登場人物たちは時折名前で呼ばれることもあるが、”The Killer” - “The Client” - “The Lawyer” - “The Brute” - “The Expert”など、誰が誰であっても構わない匿名性が保たれ - “The Killer”本人は数十は保持していそうなパスポートやスマホやナンバープレートを場面ごとに使い捨てていく - そんな強い匿名性を要求する組織名も機構も掟も明確にはされず、そういう中で与えられたミッションを遂行するだけ。うまくいって当たり前、失敗したら.. ?

最初はパリで、ホテルの向かいのオフィスビルの空きスペース - がらんと廃れたWeWorkのそれ、というのがまたどこか象徴的 - で、The Killerはターゲットが現れるのをひたすら待って、その間ヨガやストレッチをし、マクドナルドで食事をとり、雇い主と電話で話し、などをしつつ自分が仕事にむかう姿勢などをくどくど自分のあたまに向かって何度も言い聞かせる - “Stick to your plan” - “Anticipate” - “Do Not Improvise” - “Trust No One” - “Forbid Empathy” - “Empathy is Weakness” などなど。これってあの顔と声で眉間にシワでシリアスに語っているかのようで、実は80年代の村上春樹的になんも言っていない空っぽ野郎なのかも、という疑念が立ちあがり、その主人公が大事な必殺の場面で集中すべくプレイヤーでかけるのがThe Smithsの楽曲群である、と。 べつにけちつけるつもりはないけど、これだけで実はこいつは中身からっぽのただのぼんくら野郎なのではないか… と思い始めたら止まらなくなってくる。と、彼の方は現れたターゲットを狙いに狙ったその本番でやっぱりしくじって「大変なことになった」とか言っているのでなんかおかしい。

こうして重要な依頼の執行に失敗したあと、とりあえず現場からは退避したもののドミニカの隠れ家に行くと彼の恋人が襲われて病院に入っていて、やっぱり現れた組織からの刺客を追って叩き潰すべく襲撃犯を乗せていったタクシー運転手を尋問して殺し、直接の依頼人であり大学の恩師でもあるThe Lawyer (Charles Parnell)をニューオリンズに訪ねるとNine Inch釘3本で情報を聞きだしてから秘書と共に殺し、フロリダの方に向かって実行犯のひとりThe Brute (Sala Baker)とぼかすか殴りあって - なかなかすごい - なんとかやっつけて、続けてもうひとりの実行犯であるThe ExpertをNYのBeaconに訪ねていって殺し、最後にThe Client (Arliss Howard)にまで辿り着いて…

ここまで、冷酷非情に仕事を遂行する殺し屋、というイメージの外枠こそ保たれているものの、彼が語る薄っぺらい言葉と組織やシガラミらしきものとの摩擦や葛藤 - そこから滲んだり溢れたりする肉欲のようななにか - といったDavid Fincherが過去作で描こうとしてきた生々しい生のありようがぼろぼろにほつれて疲れてやけくそになっていくThe Killerと共に崩れていくようで、でもそれはそれ、この半端なお話には嵌っているようにも見えてくるのがおもしろい。

ここ数作のDavid Fincherフィルムのボディを担ってきたTrent Reznor & Atticus Rossの暴力的な音楽/音塊を嘲笑うかのように隙間にThe Smithsがちゃらちゃらと捩じ込まれてくる(ほぼイントロクイズ状態)のは、人によっては悪夢なのかも知れんが、これもまた。

The Expert = Tilda Swintonさまとの対決はもっと時間をかけて煮詰めて燻してほしかったかも。あれじゃ彼女がなんのExpertなのかわかんないわ。

The Smithsの選曲については、やや無難すぎてつまんなかったかも。最後に流れる曲はやはりあれだったし。”I Started Something I Couldn't Finish”とか、”Still Ill”とか、”Cemetry Gates”とか、”Half a Person”とか他にもいっぱいありそうなのに。主人公のありよう的にはMorrisseyの曲の方が合う気もするのだが、そこはやはり違う、ということか。


少し長めのお休みを貰ったので、青森行って京都行って大阪行って奈良行ってきました。ほぼ美術館ばかり。どこ行っても暑くて調子くるった。

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