11月19日、日曜日の昼、シネマカリテで見ました。
監督は”A Girl Walks Home Alone at Night” (2014)を撮ったイラン系アメリカ人 - Ana Lily Amirpour。
ぴっかぴかのどこから見てもB級だけど、なんか嫌いになれない。音楽はDaniele Luppi。
満月の晩、ニューオリンズで、Mona Lisa Lee (Jeon Jong-seo)は身元不詳のまま10年以上収容されている精神異常をきたした青少年のための保護施設 – というのは後でわかる – の自分の檻に入ってきて虐待を始めた看守の目を覗きこんで相手を催眠術のように釘付けにすると、看守は自分で自分のモモを「なんで?」って叫びながら爪切りでぐさぐさ血まみれにして、Leeはそうして手に入れた鍵で牢を開けて、受付の青年も同様の手でボコって、袖長の拘束衣を纏った状態で町中に彷徨い出る。
ここまで、彼女がなんでここに入ることになったのか、彼女の使うパワーがどういうもので、どういう経緯を経てそれが身についたのか、なんでこの晩にこんなことを起こそうとしたのか、起こってしまったのか、等の説明は一切なくて、このあとにもない。
収容施設での/からのホラー含みのぐさぐさしたやつとして、近年だと”The New Mutants” (2020)とかJohn Carpenterの”The Ward” (2010)あたりが思い当たったりするのだが、あれらにあったスケールのある、起爆性をもった超常感のようなものは余り感じられなくて、湿っぽい月夜のフレンチ・クォーターの雑踏をやばい目をした不審な少女がお腹へった食べものくれ、ってもぐもぐ言いながら災厄を撒き散らしていくのを遠くから眺めているうちに終わってしまう、ような。それだけで十分だったりもする。
そこに彼女を見かけて気になって追い始める - 「知らんぷりをするがよし」ってランチのフォーチュンクッキーでは出たのに - 警官のHarold (Craig Robinson)とか、デリの前にたむろしていて彼女のシャツを替えてくれたごろつきのFuzz (Ed Skrein)とか、見ていられなくてLeeに声を掛けたストリッパーのBonnie Belle (Kate Hudson)などが関わり、Leeの術でストリップのチップを巻きあげて貰ったお礼に彼女を自宅に連れて帰るとBonnieのひとり息子でやや古めのメタルを聴いたり絵を描いたりしている孤独な少年Charlie (Evan Whitten)がいて、最初は怪しいと関わらないようにしていた彼女の絵を描いてあげたり少しずつ仲良くなっていく。
銀行のATMにやってきた客の手先を操作して現金を巻きあげる二人組強盗として有名になり追われるようになるBonnieとLeeのうち、Bonnieは恨みをかった町のちんぴらにぼこぼこにされて病院に送られて、追ってきたHaroldを振りきったLeeとCharlieはFuzzの助けを借りて髪を切ったり染めたり作ってもらったフェイクのIDで初めての飛行機に乗りこんで未知の世界へ高とびしようとする。Leeがパワーを駆使して誰かを懲らしめたり助けたりするお話しではなく、子供たちの明日へと向かう解放に向けた逃走劇となって、ここにせっかくの魔術が絡むことはないので、そんなんでよいの? と思うひとは思うかもしれないが、これでよいのではないか。月の光の下、飛行機と音楽プレイヤーの力を借りてどちらかと言うと魔術を捨てて一人で生きようとするお話しになっていて、そうやって見てみればモナリザの微笑みの意味もくるりとひっくり返るような。
不気味で野蛮でゾンビだって溢れるブードゥーの町、満月の晩にどこからともなく現れた彼女が月に向かって飛びたっていく変に爽やかな青春ドラマのように見えないこともなくて、この感触って90年代のGregg Arakiあたりのにあった、ぐちゃぐちゃ小汚くやかましく、大人はみんなゴミでいなくなっちまえ、で全体として不思議となんか清々しい、変なやつを狙ったのだろうか? リアルの噛みあい殴りあいの向こうにむき出しになる無垢な魂、のようなありよう。それか、Harmony Korineの享楽と没落とゴミ、の紙一重の駄菓子的な何か、とか。
Kate Hudsonがああいう役をやったのにも少し驚いた。そうかー“How to Lose a Guy in 10 Days” (2003)がもう20年前なのか…
11.24.2023
[film] Mona Lisa and the Blood Moon (2021)
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