11.27.2023

[film] Reality (2023)

11月21日、火曜日の晩、イメージフォーラムで見ました。
邦題も『リアリティ』。現実性、といった意味をもつ名詞ではなく、単に主人公の女性のファーストネームである、と。

監督はこれがデビューとなるTina Satter、彼女が劇作家として2019年に舞台用に書いた”Is This a Room” - FBIがReality Winnerを尋問した際の実録音テープを元にした台本があり、Tina Satter自身による映画化の際にも録音テープそのものをシーケンシャルに追っていく構成は変わらない。 元のテープがそんなに長くないからか、82分。製作はHBO Films。

2017年5月9日、FBI長官のJames Comeyがトランプによってクビにされた時のFox Newsの映像をオフィスで無表情に眺めるReality Winner (Sydney Sweeney)の姿があり、そこから25日が経った6月3日の夕方、買い物から戻ってきた彼女の家の前にふたりの男 - Garrick (Josh Hamilton)とTaylor (Marchánt Davis)が現れる。

彼らはFBIである、と言って身分証を見せ、フレンドリーに話をしたい、という。彼女の方も特に慌てる様子は見せずに、繋いでおかないと犬が吠えるから、とかベッドの下に猫もいるから、とか心配を自分ではなく犬猫に向けると、捜査官たちも落ち着いてそれならどうしようかここで話すか別の場所にいくか、など、あくまでもこの聴取は強制ではなく彼女の判断や意向を尊重する自発的なものだから、と言いつつ、もうひとりの捜査官が現れ、さらに追って沢山の人がやってくると家のなかに入ってなにかの作業を始め、家の周りには”Crime Scene”の黄色テープが張られてしまう。

彼女の車にはナウシカのステッカーが貼ってあったりメモ帳の落書きもナウシカだったり、殺風景な部屋の壁にはAFIのポスターが貼ってあったり、特異なところはなくて、捜査官が調べている彼女の経歴もおかしなところはなさそう - 軍を名誉除隊後、NSAの派遣社員としてペルシャ語文書等の翻訳をしている、軍を辞めた理由はもう海外に行く機会もなくなってしまったようだから、と極めてまっとうで。

そして捜査官が、機密情報を印刷したようなこと、それを持ちだしたようなことはあった? と聞いてきて、Realityもああそういえばあんなことが、と持ち出し注意ラベルの付された文書を持ちだそうとして注意された件があった、くらいで返して、温度感が少し変わる。少なくとも彼女は機密情報がどういうものを指していて、それを持ちだすというのがどれくらいやばいことなのか、そのことを確認するためにFBIがきた、という程度は気づいているらしい、と。彼女のほうも彼らが聞きだしたいのはこれじゃなくてあれだろう、くらいの感触はもって察して、(おそらく)頭のなかに防御線を何本か引く。

彼女の聴取が細部に入っていくと、並行してスクリーンには録音内容の該当箇所が表示されるようになり、機密の機密たる核心箇所に触れると、その文言だけぽわん、て消えたり喋っている当人が消えたりする。あと、彼女が立った状態で聴取されるのが台所の裏手の、ちょっと気持ち悪い(creepy)ので使っていないスペースで、この辺の臨場感とテンションはホラーっぽかったりもするのだが、これらの演出は必要なのかどうか、は賛否別れるところかも。

確かにこの件は少し気持ちわるくて、なんでこれが機密と言えるのか、そこにはある事件の全容が書かれていて、その事件の加害者も被害者も明らかで、であればその両者をふつうに明らかにすればよいのに、そうはできない事情があって、そこにこの機密の重心があると思われるのだが、とにかくそれが機密とされることには触れられたくないらしいの。なぜなら.. どろん(煙)。

彼女がなんでそんなことをしたのか、しようと思ったのかについてもはっきりと言明はされない。が、これもわからないことはない。2016年から2017年のオフィスで、勤務中ずっと職場にFox Newsが流れていたら誰だってふざけんじゃねえよ、って凍りついた仏頂面になるのではないか。なるわよ。

この件についてははっきりとアメリカの歴史に残る恥で汚点で、だから隠したくなるのもわかんなくはないけど、もうみんなとうに知ってることだし、それを言うならあんなバカを大統領にしちゃったことそれ自体がそうだし - この辺はもうじき歴史が明かしてくれるのだろうが、その狭間であんなことになってしまったRealityはかわいそうとしか言いようがない。今から振り返ればそういうことだったんだ、ってみんな納得できるのにな。

日本だとたぶんもっと悲惨で、フジとか民放とかNHKばかり流されてあったまきて情報漏洩してやったってだれひとり機密の意識も認識もないからせいぜい文春とかタブロイドみたいので消費されるだけ、またいつものあれだから、って誰も捕まらずに悪は変わらずやりたい放題できるの。こういうのが壊れて底が抜けて腐った国っていうのよ。


しかし、いまうちにあんなふうに踏みこまれて差し押さえられたらやばいな。捜査員がしぬのでは…


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