7月8日、土曜日の晩、ル・シネマ 渋谷宮下で見ました。邦題は『大いなる自由』、英語題は”Great Freedom”。
監督はオーストリアのSebastian Meise、音楽はNils Petter MolværとPeter Brötzmann (演奏シーンも出てくる。RIP)。カンヌのある視点部門審査員賞他、いろいろ受賞していてふつうに見応えのあるすばらしい作品なのにル・シネマが直で買い付けてようやく公開、ってほんとひどいなー。(わかっているけど)
主人公のHans (Franz Rogowski)が第二次大戦中の収容所からそのまま刑務所に送られ、50年代にも刑務所にいて、68年にもそこにいて、彼は逃げも隠れもしない同性愛者で、同性愛を禁じた刑法175条の違反で捕まっていて、本人もそれは十分にわかっていて、そこを反省しようとする態度もそれに抵抗したり抜けようとしたりする態度も見せない、ただの常習者としてずっと檻の中にいて、おそらく塀の外にいた時期もあったはずなのだがそこでの生活が描かれることはなく、ただ同性愛者だった、というそれだけで投獄され、30年くらいを刑務所のなかで過ごした彼にとって「自由」とはなんだったのか。
戦時の収容所で同性愛者はほぼ病人・異常者扱いで隔離・排除され、終戦後もそのまま自動で刑務所に送られて、同房となったViktor (Georg Friedrich)は、Hansがここに来た理由を知ると怒り狂って忌み嫌って彼を向こうに遠ざけようとするのだが、だんだん近づいていって、Hansが収容所で彫られたタトゥーを消して – でっかい何かで上書き – あげたり、Hansが後に戻ってきた時にもまだ彼はそこにいたり。
Hansがいつ戻ってきてもそこにいるViktorとは別に、50年代には所内でOskar (Thomas Prenn)という恋人がいたり、60年代には捕まった時一緒にいた教師のLeo (Anton von Lucke)がいたり、刑務所なので決して居心地がいいとは言えないものの、少なくともそこで彼は生きているのだ、という目や背中や歩き方を示す – 自分が今どんなであるか、これからどうしたいかについては殆ど喋らない、まるで檻の中の動物のよう。ダンサーでもあるというFranz Rogowskiのすばらしい身体とその動き。
60年代の終わりになって175条が非犯罪化されてHansも塀の外に出られることになるのだが、彼の表情を見る限りそこに目立った歓びはなくて(長い闘争の末勝ち取ったものでもないし)、どちらかというと住処から追い立てられ追い出されるようにして、出てからそのまま解放の歓喜で沸くゲイバーに入って、無表情にあたりを見回して、そして…
最後のHansの行動で、タイトルの『大いなる自由』がものすごいスケールでがーんと被さってきて、刑務所の陰や日なたで動いていた彼の身体や目の動きを思い浮かべて、自由とは? 更にそこに被さる” Große” -「大いなる」とは? - について考えてしまうことになる。それって場所とか境界のことではないし、個人の心の持ちようとかそういうのでもないし、愛さえあれば、とかいうものでもないし、法によって自身の行動や権利や愛の行方が制約されないこと他者のそれも同様に、おそらくこのへんがベースで、でもそれだけならなんでHansはあんなにうかない顔をしていたのだろうか、とか。
あとは、やっぱし愛について。メインの写真にもなっているHansががっしり抱擁するとことか、彼が恋人と一緒にいるところには本当に感動してしまう、他方でひとりの男をずっと一途に想い続ける話でもなくて、この辺のありようも含めた「大いなる自由」なのだ、というのと、とにかくこれらを囲って封じ込めてしまう刑法と刑務所と。そもそもなんで同性愛が? って今だと信じられないかもだけど、これについては英国だって同様に監獄行きだったし、もっと変な話だと女性の同性愛は特に犯罪とならずに最初から見えないものとして視野から外されていた、というー。
いま、この「自由」を語らなければいけない理由は、この「自由」が別な方角からずるく嫌らしく浸食されつつあるように思うからで、それはもう本当にだめでやばくて、だからこの作品がこんなかたちで公開されざるを得ないことに余計にあったまきて。
いま、とっても見たい一本にChristian Petzoldの新作”Afire”があるのだが、ここにFranz Rogowskiは出てしないのかー、って。ちょっと残念。
あと、牢屋の中なのに画面はどこを切っても信じられないくらいに美しくて、ふらふら入っていきたくなるくらいで、だからそれも危険なのだ、って。
7.21.2023
[film] Große Freiheit (2021)
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