7.17.2023

[film] Pearl (2022)

7月8日、土曜日の午後、シネクイントで見ました。

A24のホラー。監督はTi West、脚本はTi Westと主演のMia Gothのふたり。 先に作られて公開された時代設定は後(1979年)であるらしい”X” (2022)の方は見ていない - なんか(なぜか?)とてもおっかなそうだったので。なので、ここのこれがあそこに繋がるのか、みたいな話はできないのだが、あんまりそういうところのない、きちんと完結した作品として見ることができた。

時代は1918年、周りに畑しかないテキサスの田舎の一軒家に両親と家畜たちと少し離れた沼のワニなどと暮らすPearl (Mia Goth)がいて、夫は第一次大戦に従軍してヨーロッパに行ったきり、父(Matthew Sunderland)は何があったのか全身が麻痺して介護が必要なので、母(Tandi Wright) - 興奮すると喋りがドイツ語になるのでこの頃のドイツからの移民? - が家の長として全てを厳格に仕切っていて、Pearlは母に言われた通りの奴隷仕事 - 家畜の世話、父親の食事に入浴、町への買出しなど - をずっとさせられて口答え禁止の日々 - これらがPearlの視点 - こんな家も土地も、絶対抜けだしてやる! で語られていく。

夢はムービースター! でお使いの合間に町の映画館でかかるダンスレビュー映画にうっとりしていると、映画館に寝泊まりしている映写技師(David Corenswet)に声を掛けられていつでもおいでよ、って仲良くなり、地元のお金持ちの家の義妹Misty (Emma Jenkins-Purro)からはもうじき巡回オーディションが来て、これに受かれば全米をツアーできる - つまり家を出ることができる! よ、と言われてこれしかないな、そして自分なら絶対選ばれるはず、って確信する。

そんな現実と夢の狭間で、なにもかもやってらんねーよ、って飼っているガチョウの串刺しをワニに与えたり、お使いで買った父親用のモルヒネでラリったり、やらしい映像を見せてくれた映写技師とやったりしていると、母はあなたのそんな悪事も思惑もとうにお見通しだからね、ってすべてを潰しにかかる。

彼女の手もとにあるのは、案山子からもらったシルクハットとオーディションの赤いドレスだけ、それでも彼女はここで立ちあがって戦わなければ、玄関先に置かれた蛆のわいた豚の丸焼きみたいにされてしまうからー。かの『オズの魔法使』(1939) の真逆をいく、家には絶対帰りたくなんかないんだ、って。

若いPearlにのしかかるいろんな抑圧がゆっくりと彼女を押し潰し蝕んで彼女からあらゆる希望の芽を摘み取ってしまったその果てに現れる”Pearl vs. the World” というホラーによくある構図 → ここにこうしてモンスターが… 見よ! という    Aのよりも、退屈な田舎暮らし、どうすることもできない親の縛り、とにかく明るい未来が一ミリも見えないこと、反対の外界にはそうでない世界や生き方がはっきりとあって見えること、などが格子模様のセットとして整然と配置され、その中でのサバイバルとしての彼女の行動(復讐、なのか? 少しちがう)が少し怖いけど、やや痛快かつ痛切に響いてきて、そこにはサイコホラーの一線を超えた先にありそうな闇も深淵も、超常現象もない。ぜんぶわかる、やったことなくても頭のなかで考えたことくらいはある(ない?)。

だから最後の、エンドロールに出てくるスクリーンテストのような、Pearlのいろんな笑顔模様がすごく沁みて、ここには祈りも希望も絶望も妄執も確信も、彼女の錯綜したエモーションぜんぶが最後の光に向かって溶けていくかのようで、あれをすれすれで狂人の笑みのようにも見せてしまうところはうまいなすごいなー、って。

そして、このはっきりと陰惨な出口なしの状態が1918年のアメリカの田舎には既にあって、今に至るまで脈々と続いていて、そこに別に違和感とかないのって、これもまた別の意味ですごいことなのかもー。

これって、邦画にもぜったいあっておかしくない設定のだと思うのだが、過去あったりしたのだろうか?
(でも陰惨になりすぎて見たくないやつになっていそう)


とにかく暑すぎてなんもやるきにならないー (そもそもやるきないけど)

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