6.15.2023

[film] Peter von Kant (2022)

6月6日、火曜日の晩、ヒューマントラストシネマ有楽町で見ました。邦題は『苦い涙』。

François OzonによるRainer Werner Fassbinderの”Die bitteren Tränen der Petra von Kant” (1972) - 『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』のリメイク。オリジナルのを見たのは30年くらい前だとおもうが、いきなりあれ見ても大変な世界だなあ.. くらいしか出てこなかったわ。

女性キャスト中心に演じられていたオリジナルを男性キャストにスイッチした際にタイトルは男性主人公の名前のみとなった。ここにはそれなりの意図があったと思うのだが、邦題は削られた方の「苦い涙」のみとしている。どうでもいいことなのかもしれないけど、あーあーだわ。オトコの「苦い涙」とかが大好物なにっぽんのオトコ…(しゃれであってほしい)。

70年代のケルンの一軒家(の二階?)が舞台で、カメラはここからほぼ外に出ない。

ここが映画監督Peter von Kant (Denis Ménochet)の住居兼スタジオで、あとは秘書のような身の回りの世話をする使用人のような、ずっとそこにいて口をきかないKarl (Stefan Crepon)がそばにぴったりついている。

そこにPeterがデビュー作を撮ってスターにしてあげた(と彼が自慢する)Sidonie (Isabelle Adjani)が若者のAmin (Khalil Ben Gharbia)を伴って現れるとPeterの目の色が変わって、彼にいろんなことを聞いて酒をすすめて、彼が身の上話を始めると撮影機材を使って彼を撮ってみたりして、ここにいたかったらずっといていいから、という。

Peterは熊のようにでっぷりして神経質、というよりはぜんぶ自分の思う通りにしないと/ならないとダメだイヤだの凶悪熊タイプで、それをまわすためにはハチミツではなく酒が必要で、そんな彼の雑用や言いつけを受けるKarlはがりがりの見開いた目がすべてを語るタイプで、このできあがった鉄板の主従関係 – やらかしてもクッションがある - もドラマの基調音としてある。

Aminを自分の手元に繋ぎとめるために、Peterは彼を自分の映画に使ったりパーティに連れていったりするのだが、それを続けていけばいくほどAminは自由を求めて好きにやりたいように振る舞い、かと思えばしおしお戻ってきたり、誰の目でみても哀れなPeterが弄ばれているふうなのだが、Peterは世界の中心にいるのは自分だ、って吼えまくって揺るがない。

密室で愛と嫉妬に狂って愛憎の見境いがなくなり、さらにそれを糧にむくんでより深い方に嵌って溺れて、という抜けられない泥沼模様を描く、というテーマについてはオリジナルと変わらないと気がする(要再見)のだが、まんなかにいきりまくる熊男を置いて、そんな熊が吼えたり悶えたりぶっ倒れたりを繰り返していくのって、本人にはわるいけどなんだかおかしくてたまんないの。これに関してはDenis Ménochetの演技がとてつもなくすごい。

そしてそのテンションは、彼の母(Hanna Schygulla)や娘(Aminthe Audiard - Jacques Audiardの姪なのね)がやってきても緩むことはなくて、オリジナル版で「当事者」だったHanna Schygullaに「あらまあ」などと言わせてしまうくらいに破廉恥にまるごとぶちまけていてすばらしいったらない。こんなふうなほぼ修羅場のじたばたのみの85分。

オリジナルのドイツの表現主義っぽい、モノクロで魂を掘りだすようにべったりねっとりしたアプローチが、フランス映画となることで(ポスターにあったような)ポップアートの表皮と肉にびろびろ乖離していくような、鮮やかにチャネルが切り替わるような、お料理をする楽しさおもしろさ。John Watersが大喜びしたのはこの辺の軽い手つき(キャンプとかいう?)だったのではないか。

François Ozonの作品の傾向として、ものすごくグロテスクだったり虐待に近いような所作や言葉をあっさりさらりと見せてしまい、場合によってはそれがきれいにおもしろく(それだけのものとして)見えてしまったりもするのだが、フィクションのありようとして本当にそれでよいのか、は少しおもった。今回も。

むしろ、いま見るべきはこれと同じ業界を舞台として丁度本日から(やっと来てくれた)始まる”The Assistant”の方だよ、って強引にもっていきたい。こっちは全く笑えないけど。(もう笑えないし怒ったほうがよい)

音楽はPeterがレコード盤をプレイヤーに乗せて流れるSidonie = Isabelle Adjaniの歌う“Jeder Tötet was er Liebt” = "Everyone Kills What They Love"とか、The Walker Brothersの“In My Room”とかがいちいちわかりやすく堂々と鳴り響いて、修羅場のサウンドトラックとしてはたまんないのだった。


もう1000000回くらいめだけど、ほんとこの国やだ。滅びてしまへ。

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