少し戻って6月15日、木曜日の晩、Strangerの『1980-2000年イギリス映画特集』で見ました。
邦題は『とても素敵なこと』。日本では97年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にて上映されたのが最初だそう。
監督はこれがデビュー作となるHettie Macdonald、原作はJonathan Harveyによる同名戯曲。
舞台はロンドンの南東の方の団地が並んだコンプレックス – Thamesmead(ちょっとBarbicanにも似ている)で、遠くに薄く虹が浮かんだりしている。
Jamie (Glen Berry)は体育の授業やっていてもフットボールなんか嫌いだし集団に馴染めなくて、ひとりサボって家に戻ってもパブで働くシングルマザーの母Sandra (Linda Henry)は今の恋人Tony (Ben Daniels)とずっとべたべたしているし、隣人のLeah (Tameka Empson)はいつもMama Cass / Cass Elliotのレコードを爆音でかけて歌って文句言われている。なぜMama Cass?
Jamieのもうひとつの隣の部屋に暮らす同学年のSte (Scott Neal)は売人をやっている兄とほぼ喋らない(あとでアル中とわかる)不気味な父との3人暮らしで、使いっ走りとして上のふたりにずっと好きなようにやられて虐待されている。
Jamie自身がゲイであることはその気付きも含めて自分からは言わないし特に示されることもないのだが、家族に虐められて傷だらけのSteを自分の部屋にいれてシャツを脱がせて看病してあげたところでそれが控えめに、言葉もなく与えられ伝えられて、その時のSteの驚きと困惑、そしてJamieのああこれからどうしよう、の惑いや震えは画面を見ているこちら側にもやってくる。
そこからJamieの自分のなかに籠ってどんよりした自問自答というか、雑誌スタンドでゲイの雑誌を万引きして恐々めくってみたり、怒らせてしまったらしいSteとのことをこれからどうするか考えこんだり、でも母は自分のパブを持つ夢とかTonyのことで頭いっぱいだし、SteとJamieのことを見てしまったLeahはなにか思って企んでいるようだし、基本はろくでなし長屋の、みんな傷があったり拗れていたりの善人 - 他人にとってよいことを考えてあげる人 – じゃない人たち、自分のことだけで精一杯の人たちが暮らす区画でどうやったら誰かをすんなり愛したりそれを伝えたりケアしたりすることができようか、という事態や場面をJamieの思い詰めた眼差しと共に重ねていく。
やがてSteも奇跡のようにこちらの方を振り向いてキスしてくれて、ふたりでおっかなびっくりゲイクラブ行ってみたり、それをSandraが追っていったり、そこから更にまたいろんなとこにヒビが入ったり壊れたりしつつ、最後は昼間の路上で"Dream a Little Dream of Me"に乗ってみんなでスイングして、長屋の人たちはなんだなんだ? って。
周囲の無関心と中心にいるふたりの間の溝とか段差を描くのではなく、主人公のふたりの周りでものすごく悲惨で陰惨な事故や出来事が起こるわけでもなく、ふたりのロマンスを周囲から隔絶した楽園のように描くのでもなく、出てくる人々は既に初めからみんなそれぞれに疲れたり傷ついたり痣つくったり心のなかで泣いたり得体が知れなかったり、それぞれのやり方でぼろぼろになったりされたりしていて、その状態を巡りつつ少しづつ近寄っていって道端でダンスをする、その少し疲れた模様がよくて、それを”Beautiful Thing” って呼んで、そこに冒頭の淡い虹が被さる。
それはほんの一瞬の、ある一日の断面でしかないし、明日からはいつもの変わらないぼろ状態に戻るのはわかっているけど、それでもこんなことは起こるよ。
というのを英国的なじめじめに浸して粗め暗めに描くのではなく、団地が並ぶぺたんこのからりとしたカラー画のなかでアメリカ風にさらっと描いていておもしろいと思った。
このふたりはこの後、きっとブエノスアイレスに渡って、”Happy Together” (1997) -『ブエノスアイレス』を撮ることになるのだろう。
というわけで、サントラはMama CasとThe Mamas and The Papasばかりなのだが、エンドロールで流れる"Move in a Little Closer, Baby"にはほんとにじーんてくるし、これのなにがわるい? って少し暴れたくなるくらいにしっくり画面にはまる。そういえば、The Mamas & the Papasの"California Dreamin'"がやはり爆音で流れていた『恋する惑星』が94年 - この辺になにかあったのかしら?
6.23.2023
[film] Beautiful Thing (1996)
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