6.08.2023

[theatre] National Theatre Live: Life of Pi (2023)

5月30日、火曜日の晩、Tohoシネマズ日本橋で見ました。

原作はYann Martelによるブッカー賞候補となった同名小説(2001)、Ang Leeによる2012年の映画版はAng Leeにオスカーの監督賞をもたらした。つい「ライフ・オブ・”ぴ”」って呼びたくなるやつ、の舞台版。2019年にシェフィールドで初演された。Lolita Chakrabartiが脚色し、Max Websterが演出して、すばらしいパペットのデザインはNick BarnesとFinn Caldwellによるもの。2022年のOlivier Awardを5部門で受賞している。

映画版は2012年のNYFF (50th) の初日のプレミアで見た。上映後の会場は大喝采だったがものすごく変な映画かも、という印象を拭うことはできず、でもぐっしょり濡れてしおれたRichard Parker(虎)とか、あんなところにいるとは思えないミーアキャットの大群にやられた、というか主人公と同様に振りまわされて最後の方は疲弊してどうでもいい - なんでもこい!になってしまったというか。

これが舞台化されるとしたら、映画にあった沈没や動物たちのスペクタクルは特殊効果やパペットに頼ることになるだろうし、その結果として子供向けのわかりやすいの(例えば、諦めずにがんばって生きよう!みたいな)になったらやだな、とか。(その心配はいらなかった)

冒頭は病室にベッドが一台、そこにメキシコのカナダ大使館(船はカナダを目的地としていたから)の職員と保険会社の社員が現れて、船が台風で沈没し、227日間漂流して生き残ったという16歳のPi (Hiran Abeysekera)に事情聴取をしようとしている。日数や発見された時の状況を考えると彼ひとりでこの事態をサバイブできたのは奇跡としか言いようがないので、なにか嘘をついたりズルして隠したりしているのではないか、と疑っている。

初めは誰もいないと思われたベッドの下に隠れていたPiをバナナで引っぱりだしてみると、彼は明らかにPTSDで苦しんでいて、ここから先、期限が迫っているので焦ってPiの供述をせっつく保険会社の人(日本人)を前に支離滅裂な言動とアクションを繰り返す現在の彼と、過去の冒険譚のただなか - 海の上にたったひとりで勇ましく吼えて生き抜こうとする彼が切り替わっていく - 劇中の演技であれば見事、って思うけどこのアップダウンがライブだったら相当やばそうな。

ベッドのある病室から出発前のインドのホームタウンとか、引越し荷物や動物たちを積み込んだ船内、更には沈没後の救命ボートまで、Piの頭のなかのスイッチに応じてテーブルクロス引きのように一瞬で切り替わって海の上にぶわん、って広がる舞台装置が見事で、まるでマジックを見ているようで、そのマジックの絨毯は彼が遭遇した危難や奇跡の局面や断面にシンクロしていく。その幻惑されて引きずりこまれるかんじは映画の特殊効果のそれとは明らかに異なるし、小説でも難しいかもしれない。

そして、そういう装置の間で、というよりこれら装置の一部であるかのように自在に動き回る操り動物たち - シマウマ、キリン、オランウータン、ハイエナ、カメ、そしてもちろんRichard Parker(虎)の動きがすばらしい。彼らはみんな海の底にいってしまった亡霊のようなものなので、ああいう形状をしてああいう動き – なんとなく獅子舞のよう - になるのはわかるし、それは何度でも生と死の周りでダンスを舞いながらやってくるだろう。

他方で、ここで示された病室と夢の世界の往復運動が損なってしまったのが、映画の最後の方で描かれた世界のどこかにありえたかも知れない、Piの周りにいた家族みんなが向かっていったと思われる極楽浄土的な永遠に続くなにか(π)で、ミーアキャットのうじゃうじゃコロニーを見せるのは難しかったかもしれないけど、あそこはちょっと見たかったかも。それに近い話で、原作にあった(映画にも少しは)と思われる仏教的な死生観のようなところは、このよくもわるくもどたばたした劇のなかでやや後ろに下がってしまった気がする – あの動物たちはお盆に帰ってくるあれらなのでは、とか今思った。

あと、映画ではたしか中年になったPiが過去を回想する形式で、それは”Life of Pi”というタイトルそのままのひと連なりの絵巻物になっていたと思うが、この舞台は、病院の一室で監視される病人としてのPiと、その脳裏に煌めき点滅していた生命のうねりが躁状態で行ったり来たりして、そんな対比の中にある”Life”もちょっとしんどいかもなー、などと。

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