6.26.2023

[film] 嵐を呼ぶ18人 (1963)

6月17日、土曜日の昼、この日から始まったシネマヴェーラの特集『追悼特集 来るべき吉田喜重』で見ました。
いろいろ見なきゃ、というより本当にいなくなってしまったのか… というショックの方がまだ大きくてとてもしょんぼりしている。 そんな特集の最初をデビュー作の『ろくでなし』から始めるよりはやはり嵐を呼んでほしかった、ということなのだろうか。

原案は皆川敏夫、脚本・監督が吉田喜重。

海に面した港町(呉?)の造船所の下請けで働く島崎(早川保)は厚生係の殿山泰司から寮の管理係をしてくれれば特別手当を出すよ、と乞われて、借金で首が回らなくなっていたことは確かだし、でもこれを受けたら工場に縛られっぱなしになってしまうし、でも少し仲のよかったノブ(香山美子)とのことも考えて仕方なく受けることにする。

大阪でタコ師の芦屋雁之助に束ねられて寮にやってきた18人 – 点呼されたりひとりひとりの紹介があるわけではないのでなんとなくの数と薄暗くて個々の特徴が入ってこない顔たち - でしかない – はみんな札付きでいろんな事情を抱えて流れてきたと。 どう見ても誰ひとりとして人の言うことなんて聞きそうにない荒くれた半端な連中で、毎日酒のんで花札やって暴れて、そんなのばかりで労働争議でストになっても働かなくていいの? くらいだし、更生も厚生もどうでもよくて、町に出ればやくざと喧嘩してぶわーっと海の方に流れてきて暴れるわ、ノブに乱暴した奴は自殺未遂の騒ぎを起こしたりするわ、ロクなことをしてくれない。

雨降って地固まるどころか最後は土砂降りのなかの島崎とノブの結婚式があって、そのあとで彼らは再びタコ師に手配されて北九州の方に向かう列車に乗せられ、ひとりの子を迎えに(突然)浪花千栄子が現れたりするのだが、彼もやっぱり列車に乗りこんで旅立っていくの。

嵐を呼ぶというよりはただのハタ迷惑な嵐そのもののようだった18人はなんかやらかした都度に見せる目つきの投げやり感と乱闘や暗がりから現れるときのシルエットがやたらかっこよく – 特に柵越しに乱闘を追っていくカメラ - 最近よく予告でみるガキの乱闘映画(あれ、おもしろいの?)とはぜんぜん違うかんじなのだが、やっぱりこっちよね、って。

しかしこれが↓の次に撮られた、というのもなんかすごい。 メロドラマど真ん中からモノクロのガレージフィルムへ。


秋津温泉 (1962)

初日の特集の3本め、で同じ日の午後に見ました。上映後に岡田茉莉子さんのトークつき。

藤原審爾の同名小説(1947)を岡田茉莉子のデビュー100本記念作品として彼女自ら企画して吉田喜重に依頼して、彼は原作モノは撮らない人だったのだが何度か断られた後に監督自身の脚本で実現したもので、映画史上のいろんな「もしこれが作られていなかったら」、がぱんぱんにこめられた必殺の1本。 撮影は成島東一郎、林光の音楽も見事で、あとは岡田茉莉子自身による衣裳 - 着物の毬?模様とか、どれもとんでもなく素敵で美しいから見て。

リンカーンセンターでの松竹110年記念特集のとき、すばらしいプリントで見て以来。この時の英語題は”Love Affair at Akitsu Spa” .. なんかちがう?

太平洋戦争で体を壊して生きる気力も失った周作(長門裕之)が秋津温泉に流れ着いて、温泉宿の娘 - 新子(岡田茉莉子)に看病されて持ち直し、玉音放送を聞いてわーわー泣きまくる新子の姿を見て元気を取り戻すものの、元気になったのなら帰れば、って周作は都会に帰され、そのあとは回遊魚のように疲れては温泉に戻ってぐだぐだ.. を繰り返すうちに周作は東京で結婚して… そんなふたりの17年間を描く。

最後は悲劇で終わる絶対悲恋もので、岡田茉莉子の驚異的な美しさ – 特に彼女の横顔 - 顎の線にうっとりし、懸命に走っていく彼女の姿を追って拳を握ってしまうばかりの映画なのだが、その反対側で周作のバカでだらしないことにずっとイライラして、お前がしんじゃえいなくなれ、とかそんなことばかり思ってしまうやつ、でもある。邦画におけるこれに近いダメ男の系譜、ってなんかあるよね。誰のためのだか知らんけど。

最初、周作役は芥川比呂志で雪のシーンまで撮ったところで病気で降板してしまった、と後のトークで聞く。芥川比呂志のままだったらなー、とは少し思った。

こんなふうに男の方にむかつきながらも、諦念や絶望も含めた新子の17年間のエモーションが絵巻物のようなスケールで立ち現れて圧倒されて、それが突然花が落ちるように断たれて…

それにしても、1962年の彼女ときたら『今年の恋』があり『秋刀魚の味』がある。主演でも助演でも..  おそろしいしかない。

岡田茉莉子さんと初めて見たのは、トークの相手の舩橋淳さんも言っていた(たぶんこれ)2003年10月、コロンビア大学での小津コンファレンスの時だった。後の机に彼女が座っていてびびったのだがそれ以上に蓮實先生の講義がすごくてさー。

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