7日、土曜日の夕方、BFIのMaurice Pialat特集で見ました。英語題は“Don't Forget You're Going to Die”。
”Les gardiennes” (2017) - “The Guardians” - 『田園の守り人たち』 - がすばらしかったXavier Beauvoisの監督/主演作で、同年のカンヌの審査員賞とジャン・ヴィゴ賞を受賞している。撮影はCaroline Champetier。
これ、ものすごくおもしろいのに日本公開はされていないの?
大学で美術史を教えたりしているBenoit (Xavier Beauvois)はどん詰まりで精神科医(Pascal Bonitzer)から薬を貰ったりしているけどだめで、母(Bulle Ogier)も心配しているので軍隊に入ってみたりするが逆効果で馴染めなくて錯乱して、トイレで腕を切って自殺しようとしても失敗して病室で横になっていると医者が来て君はHIVウィルスに感染している、といわれる。それで自棄にドライブがかかって、警察に持っていかれた車を取り返そうとして留置場に送られ、そこでヤクの売人のOmar (Roschdy Zem)と知り合って仲良くなり、ヤクがもたらす快楽の世界にはまり込んでいく(変な着物を着たやくざの大親分役で先日亡くなったJean Douchetが..)。 深入りして更に稼ぐためにオランダにまで足を延ばしてそこそこの金を得るのだが親の顔を見たら恥ずかしくなってまた逃げて、ローマで絵を見ているとClaudia (Chiara Mastroianni)と出会って恋に落ちて、夢のような時間を過ごすのだがやっぱり無理、って電車に乗って国連軍が駐留している土地に行って軍に雇われて銃撃戦で突撃してしんじゃうの。
基本は先行きのどん詰まりとその少し先にはっきりと見えてしまった崖底の死があり、やけくそで落ちたり揚がったり錯綜した行動のありようは自閉してアンストッパブルになった「気狂いピエロ」のようでもある。
「どうせ死んじゃうんだってことを忘れるな」って言われたり自分に言い聞かせたりするとき、そこで取りうる行動は、周囲の迷惑を省みずにやりたい放題やるか、周囲から遠ざかって誰にも知られないところに消えるか、だと思うのだが、Benoitはそのバランスをうまくとって、顰蹙と内省を繰り返しながら時の経過と共にどんどん透明になっていくように見える。
彼が美術史の講義で、バイロン(の”Sardanapalus”(1821))を参照しつつドラクロアの”La Mort de Sardanapale” (1827-28) - 『サルダナパールの死』の画面と色彩を通してロマン派における死を解説しながら、もうやってらんねーわ、ていうかんじで途中で止めてしまうところとか、なんかよくわかる。
そして同じ映画か、というくらいトーンが変わって陽の光に溢れるローマで紡がれていく生の瞬き、教会の絵もひまわりもパスタも、そしてClaudiaも、すべてが眩しくておいしくて、Benoitはあそこに浸ることでロマン派的な死の影から抜けだすことができて、自由を獲得できたのではないかしら。
音楽はJohn Cale。前半は静かなピアノソロで、ローマのシーンでは弦が全面に出てくる、その並走していくさまも素敵で。
あのフラットはJean Douchetさんの自宅なのかしら?
90年代初のHIVに感染した大学生、というと昨年見た”120 battements par minute“ (2017)が思い起こされるのだが、あの映画とはトーンも雰囲気もぜんぜんちがう。あたりまえかもだけど。
12.09.2019
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