6.26.2019

[film] Thunder Road (2018)

20日木曜日の晩、Prince Charles Cinemaで見ました。 なぜか35mmでの上映なのだが、ものすごく陰影がきれいに撮られているのでよいかんじだった。

監督/主演はJim Cummings、この名前をふつうにサーチすると『くまのプーさん』の声優さんが出てくるのだが、この人とは別人で、2016年に撮った同名の短編映画がSXSWでShort Film Grand Jury Prizeに輝いて、この作品はそれをベースに長編として引き伸ばしたものだという。

冒頭、警官のJim (Jim Cummings)は、自分の母親の葬儀でめそめそ泣き虫まみれの弔辞をして、そのなかで母親が大好きだったBruce Springsteenの"Thunder Road"を彼女が自分にどんなふうに歌って踊ってみせたかを再現しようとするのだが、ラジカセが壊れて動かないので癇癪起こして大惨事になり、それを動画に撮られて娘のCrystalと別居している妻のRosalind (Jocelyn DeBoer)は困惑するしかない。(元の短編はこの部分を撮ったものらしい)

母親の死によって加速されたのか元々そうだったのか不明だが、子供みたいにあたまに血がのぼると自分でなにやっているのかわからなくなって自爆していくJimの勤務先での同僚とのやりとり、現場で思いっきり踏みこんだら犯人が自殺しちゃったり、離れて暮らしていて何されても痛くないCrystalとのやりとり、Crystalの教師とのどこまでも噛みあわない変な議論、これらの一見笑えそうで、でもほんとうに笑ってよいのかよくわからない微妙な温度感のあれこれが、勤務中の挙動が問題になって警察をクビになり、同僚の友達からは呆れられ、Rosalindからは離婚を切り出され、法廷ではJimを暴力的性向ありとする判事との間でへまして全てを失っていったり、Jimはどうなっちゃうのか。

予告も宣伝もどたばたコメディふう(ちょっとだけ涙)なかんじだったのだが、あんまし笑えなくて引き攣ってしまうようなのばかりで、単に「大人になりきれない大人子供」のギャグ集で済ませてしまってよいのか、ひょっとしたら”First Reformed” (2017) - 『魂のゆくえ』のような果てのない彷徨いを描いたもの、くらいの重さをもったものではないのか、とか。

終盤、Jimは葬儀には来れなかった姉に会いにいって、生前の母のエピソードを聞いたりして、それで放心して戻ってみたらRosalindがドラッグで突然死んでしまって… ていう激しいアップダウンが最後まで。

“Thunder Road”の歌詞の世界、なのかもしれないがこの曲をカバーしたBadly Drawn Boyがサントラをつけた”About a Boy” (2002)のことも思いだしたりして、歌詞でいうとこの辺あたりかしら?;

    - Show a little faith there's magic in the night
    - You ain't a beauty but hey you're alright
    - Oh and that's alright with me

最後まで“Thunder Road”の曲そのものが流れることはないのだが、アメリカ南部にいくらでも転がっていそうなあんまぱっとしない人たちの間に星空のように降り注ぐイメージがこのタイトルを置くだけで素敵にやってきて、笑ってじーんとして、みんながんばろ、になる、今どき珍しいかんじのドラマだった。

ところで、主演のJim Cummingsと妻を演じたJocelyn DeBoerさんは別のコメディドラマでも夫婦役をやっているのだが、そいつはまだ書くことができないの。

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