13日、木曜日の晩、CurzonのMayfairで見ました。公開1週間前のPreviewで、上映前にAgnès VardaとJRによるイントロと、上映後にふたりとのQ&Aがある。”Faces Places” - 『顔たち、ところどころ』。
Mayfairのこの映画館は結構古くてスクリーンもでっかいのが一個しかなくて、普段はご近所に住む老人たちばかりが来るところだからか昇降機があって、それに乗っかってふたりが下から昇ってくる。田舎の結婚式場のあれみたい。外面だけだとやんちゃな孫と祖母、でもとても仲がよいことはすぐにわかる。
写真家のJRとの共同作品で、でもJRのことは殆ど知らなかった。顔とかを撮る写真家? くらい。
日本でもちょうど公開されたようなので、細かいのはいいよね。 すばらしい作品なので見てね! しかない。
捨てられているもの、忘れ去られようとしているものや人を拾いあげてほうら、って見せてくれる名人であるAgnèsと、ふだんは気づかないただの「顔」とかをでっかく投影して、見ろ! って見せる名人のJR、それぞれまったく別の道をすたすた歩いていたふたりがある日ばったり出会って、なんかやってみようか、と旅に出る。
JRのプリンター付の車(なんとなく”Dumb and Dumber”のあれみたい)に一緒に乗りこんで、農村とか住民がほぼいなくなってしまった炭鉱労働者の集合住宅とか、ニュータウンとして開発された途中で棄てられて廃墟になっているところとか、工場とか浜辺とかに出かけていって(尚、場所の選定についてAgnèsは相当にうるさかったのだそう)、そこにいる人達の写真を撮って、そのでっかいモノクロのプリントを建物の壁とかに貼りつけて、それを撮られた人達が見る。その写真が貼られることでその場所の光景が変わる、というのと、そのでっかくなった被写体が貼られた場所から風景を見渡す(ことを想像する)、そうすることでそこに暮らしてきた人々の風景に対する接し方、そこまで流れてきた歴史や時間に対する接し方が変わる - 眠りから目覚めた巨人が見てみたら.. のような目線で自分の今生きている場所を眺めてみる。
これが(この作品の中でも言及されている)”Cléo de 5 à 7” (1962)でも”Le bonheur” -『幸福』(1965)でも、ひとの眼差しのありように幻惑されて、その視線の先にあるものを追い続けてきたAgnès Vardaと、彼女に導かれるようにして眼差しの不思議な力やその効果を追及してきたJRのひとつの成果で、でもそのコンセプトのよいわるいとかよりも、ここにあるのはまず彼ら- 撮る側と撮られる側の出会いと、その出会いが導く新たな空間に対するイメージで、それこそがAgnès Vardaが映像を通して追い続けてきた/いる生々しい「美」のありようなのだと思った。
炭鉱労働者住宅長屋で、たった一人、最後の住人として住んでいるJeannineの身に起こることを見てほしい。 出会いを求める/感動強要系のうさんくさいアートとはぜんぜん違うから。
(Jeannineとの出会いには奇跡としか思えない偶然があった、と後のQ&Aで)
おもしろいのは、目線だなんだっていうのにAgnèsは目が悪いしJRはサングラスだし、決して素で見れてはいないってこと。
上映後のQ&Aは婆孫漫才みたいでおもしろかったが、いくつか。
Jean-Luc Godardのおうちに行くエピソードは、当然事前にちゃんとアシスタントを通して調整した上で行ったのにあんなことをされて、というのを映画の中と同じように泣きそうになりながらAgnèsは語って、でもあれが彼のやりかたなの、冷たいようだけど、でも彼はぜんぶ、隅から隅まで憶えていてくれて、あんなふうに差し出してくるの憎たらしい、と。 あの後のラストシーンを撮った場所で同行していた息子のMathieuにパパ(Jacques Demy)とJLGとみんなでピクニックした思い出を話した、って。
編集について。編集はAgnèsの専管事項で、とにかく深夜まで編集室に籠ってずっと編集している、と。初めはJRも一緒にやろうとがんばったのだが何言っても何も聞いてくれないので諦めて、週一回顔を出すくらいになった、と。 それを受けたAgnèsは、編集がとにかく好きで編集が全てだと思っているから(そんなの当然よ)、と。
で、その編集がFacesとPlacesを、顔たちをところどころで、繋いだってことね。
弦をうまく使ったMatthieu Chedidの音楽がすばらしい(予告で流れているので聴いて)のだが、製作の過程ではAgnèsから相当なダメが入って、彼もキャリアを積んできているひとなので結構へこんでいた、と。でも結果はよいものになったのでよかった。
なんでヤギなんですか? については、山羊のチーズおいしいんだもの、って…
うん、おいしいよね。異議なし。
あと、ここに出てくる猫もかわいい。 ComputerとCameraとCatがあれば生きていけるって言ってたけど、彼女の猫みるとほんとうにそうだと思うわ。触りたいなあ。
あと、失礼なことを言うつもりはまったくなくて自分としては最大限の賛辞のつもりなんだけど、この週の彼女の装いってどっかで見たよな、ってずっと転がしてて、あ、水木しげるの漫画かも、って。
9.17.2018
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