1.08.2018

[film] Good Time (2017)

2日の午後、Prince Charles Cinemaで見ました。

まさかこいつがFilm Comment誌の2017年ベスト1になるとは思っていなくて、なったことを知ってから慌てて見なきゃ、となったときにはロンドンでの上映は終わっていて、Prince Charlesだけが正月の3日間の各日午後1回だけ、上映してくれた。

お正月、1本目がBergmanのあれで、2本目がこれか? とか思わないでもなかったが、新年から”Good Time”なら、なんか悪くないんじゃないの、とか。

それにしてもさー、”Heaven Knows What” (2014) - 『神様なんかくそくらえ』のSafdie兄弟のだよ、見ててきつかったじゃんあれ?  うるせえよ、って口に絆創膏して見た。

Connie (Robert Pattinson)とNick (Benny Safdie - 監督の片割れ)のNikas兄弟がいて、弟には知的障害があってうまく喋れなくて、冒頭、ホラーに出てきそうな精神科医のじいさんからねちねちテストされたりしていてかわいそうなの。

この兄弟がマスクして銀行強盗に入って、窓口から紙幣を奪って、割と簡単にいったかに見えたのだが逃走中の車でカバンにしこまれた塗料にやられてついてなくて、結局Nickは捕まって離れ離れにされてしまう。 Nickは留置所で虐められてしまうことが見えているので、Connieはなんとしても彼を出してやりたいのだが、それには$10,000が必要で、盗んだ金は塗料で汚れて使えないので、女友達(Jennifer Jason Leigh)を連れてきてカードで支払おうとするのだが、彼女の母親が直前で無効にしてしまう。 ついてない。

やがてNickが留置所内の殴り合いで病院に送られたことを知ったConnieは、夜の病院に潜りこんでベッドに繋がれていたそれらしい男を車椅子で運びだしてバスに乗せ、Queensの外れまで運んで貰い、でも降りたところには家もなにもなかったので、バスで先に降りた女性の家のドアを叩いて泣き言を言って無理やり泊めて貰い、逃走用に髪を染めたりして、あとは朝になれば、のだったのに連れ出した奴をよく見たらそいつはNickとは別人だったことが判明... どこまでもついてない。

結局、元のアプローチでお金を作るしかないことになったので、Nickに間違えられた男 Ray - こいつも別の意味でついてない - と、世話になった家の娘Crystalと車で夜のQueensに走りだしていく。 果たしてConnieはNickを救いだすことができるのか ー。

まず、簡単に運ばない躓き系のクライム・ストーリーとしてすごくおもしろいのと、それを貫いているのがよくある男女の愛や復讐ではなくて、兄と障害をもった弟であるというところ、そして兄の思いとは裏腹にどこまでいっても終わってくれない、延々たどり着かない底なしの夜の怖さ(→ “After Hours”)、これらが団子になって転がりながら疾走するConnieの熱と勢いがすばらしい。

『神様なんかくそくらえ』は道端の枯葉みたいに擦り切れた男女がからっ風に吹かれて右から左にからからと飛ばされていく話だったが、こっちは、同様に擦り切れたどん底の兄弟がじたばたしながら踏んばって暴れて、でも...

彼らみたいな(彼らみたいになってもおかしくない)ぎりぎりの人たちは身の回りにたぶんいっぱいいる。 そして自分があんまり見たくないかも、と思ってしまった理由はその辺にあるのかも、とか。
今の若者(達)を描く、となると大抵ホラーとか狂った恋愛系に行きがちだけど、こういうのってもっと作られていいよね。あと、彼ら兄弟だけじゃなくて、巻きこまれて散々なことになるRayもConnieに使われただけだったCrystalも、ひとりひとりがみんな強く印象に残る。 (例えば、Aki Kaurismäkiの”The Other Side of Hope”なんかは、同様の半径5メートルを年寄りの目線でやさしく柔らかく描いたものだと思う)

あと、見事だと思ったのがオフィスとか病院、モールとか住宅とかバス停とか道端の冷たくしーんとした夜のかんじ、夜のQueens - 深夜のNY1に出てくるアンカーのひと(夜番のLewis … ずーっとやってる)も、そのままだし。 夜のNYの風景を描く名手、というと少し前のJames Grayがいたけど、この映画のも素敵。 映画のロケ地はここに出ていた。

https://www.nytimes.com/2017/08/17/movies/good-time-robert-pattinson-josh-benny-safdie-queens.html

あとRobert Pattinsonがよいの。 “The Lost City of Z” (2016) の彼(脇役)もよかったけど。

Oneohtrix Point Never(David Byrneさんの新譜にも)の音楽は、初め苦手なエレクトロ寄りかと思ったけど、静かなところとやかましいとこの緩急バランスが見事だった。ラストに流れる曲で、Iggy Popとしか言いようのない声が被ってきたところで、ああこれすげえわ、になった。(曲のタイトルは"The Pure and the Damned.")

映画館のでっかい画面、大音量で見るべき作品。

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