なんかばたばたなので新作のレビューだけざっと書いておく。(なんで新作のが書きやすいのかしら?)
9日、火曜日の晩、BFIのPreviewで見ました。これの前にベルイマンの『秋のソナタ』見て十分へろへろで(平日の晩のはしごはしんどい)。
すごくおもしろかったのだが、想像していたおもしろさとはちょっとちがった。
ミズーリのOutsideのEbbingの道路脇に80年代を最後に打ち捨てられた3連のビルボードを眺める女性がいて、そこから彼女 - Mildred Hayes (Frances McDormand) - は町の広告代理店に入っていって、そこの3枚にこれを貼りだして、って赤バックに黒字で3連のメッセージを依頼する。それはレイプされて殺された娘の事件が解決しないことについて地元のシェリフを名指しで糾弾するもので、TVでも取り上げられて問題になるのだが彼女はぜんぜん動じない。
名指しされたほうのシェリフ- Bill Willoughby (Woody Harrelson) – も頭を抱えながらいろいろ手は尽くしているんだけど、とか自分は癌で具合よくないんだけど、とか言うのだがMildredからすれば、それがなにか? やることやんなさいよ、しかない。
前半は毅然とした彼女の態度と仏頂面から、彼女の悲嘆と絶望の深さと、それとは対照的にぜんぜん動かずにだらけきった田舎町の警察とかその周りの人々とのコントラストがくっきりと出て笑えたりもするのだが、後半、Billが唐突に自殺してしまうといろんなことが噴出して混沌としてくるの。
はじめは最悪の状態で殺された娘の敵討ちとして犯人を捜す、そのためになかなか動いてくれない警察を焚きつける、だったのだが、警察の柱が(おそらくほんの少しはMildredのせいで)亡くなってしまったことでMildred vs. 警察、Mildred vs. 市民の様相に変わってきて、ブチ切れた警官のDixon (Sam Rockwell)が代理店の若者をぼこぼこにしたり、Mildredの働く店に脅しが来たり、ビルボードが焼かれたり、Mildredも返しで警察署を焼き討ちしてDixon丸焼けになったり、暴力の連鎖が止まらなくなる。
最初に思っていたのは、これって現代の西部劇 - 敵討ちが中心の勧善懲悪の、みたいなやつかしら、だったのだがなんか違うねえ、で、例えば今のネットとかSNS周辺でごちゃごちゃ現れるああいうのに近いのではないかしら、とか。
最初にピン留めツイートで3つ、確信犯がでかでかと拡散希望、ってやったら狙い通り大炎上して、でも騒ぎが拡がりすぎてヒトが死んで、そしたら渦が混沌としてきて、どっちが良いのか悪いのか、敵だと思っていたのが味方だったり、その逆だったり犯人探しが始まってわけわからなくなって、結局みんな共犯じゃん、みたいな気がしてきて疲れたり、追っかけるのに飽きたりしてきて、最後にはデータの信憑性みたいなとこに落ちたり、愛だろ愛、みたいなことを呟いて離れていく。
それでも死者と共に生きるリアルライフの当事者たちには終わる旅ではないので、諦めないで次に流れていくしかない、みたいな。
なんでこんなに生きにくくなっちゃったのだろう?
互いの距離がびっくりするくらい近くてすぐに簡単に傷つけることができるのに寄り添ってあげることはしなくて、強がってはいるものの互いにびくびくしてて、こんなことでよいのかしら? と思いつつも結果的には長いものに巻かれて団子になってしまう。警察の反対側には代理店があって(笑)、放送局もすぐ飛んできて、そこには善も悪もクソもない。 なんか思い当たるよね?
それでも、ここで起こったことは犯罪で、ここに現れたのは悪で野蛮で、邪悪ななにかで、絶対に赦すことのできない、取り下げたり諦めたりすることができないなにかなのだ、って。
詩織さんのことも慰安婦のことも、ここの、ミズーリの線上の地続きで起こっていることで、”Outside Ebbing, Missouri”ていうのはつまりは世界ぜんぶだから。アメリカの田舎の話だろなんて、ぜーんぜん笑えるものじゃないの。あーやだやだ、って。
Mildredが最後までほとんど笑わないのはそういうことで、そこに少しだけ救いはある。のか?
こないだのGolden Globe、参加した誰もが明確な態度表明をしたあの場所で、この作品があれこれかっさらっていったのはとても象徴的なことで、でも賞は獲ったらおめでとうで終わりだけと、この映画が描こうとした世界はそうじゃないから。そういうとこも含めて、多くのひとにきちんと見られてほしい。
Sam Rockwell、いろんなアワードの助演男優さらい、とうぜんのすごさ。 彼のママ(と亀)もすてき。
あと、彼女の息子役ででてきたLucas Hedgesくん、”Lady Bird”でもよかったよねえ。
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