6.01.2017

[film] Lola (1981)

ああもう6月になってしまったねえ。
5月27日の土曜日の午後から晩にかけて、BFIのR.W.Fassbinder特集から81年の2本を見ました。
マンチェスターでのテロを受けて、BFIの出入り口も一箇所になって、荷物チェックされるようになってしまいましたわ。

Theater in Trance (1981)

81年、コローニュで行われた世界演劇フェスティバルの様子を撮って繋いだだけのぶっきらぼうなドキュメンタリー。
いろんなパフォーマーによるいろんなパフォーマンス - Pina Bauschから笈田ヨシまでをキャプションも紹介もなく、ランダムに流していって、そこにFassbinder自身によるアルトーの「演劇とその分身」の朗読などが被さる - らしいのだが、でもどの箇所がアルトーだったのかあんま自信がない。

世界中から寄せ集められた100以上のパフォーマンスが上演される、そういう演劇の「祭」で各パフォーマーは当然自分たちの劇世界に没入して、観客はそれを見て反応して、という共時体験の集積っていったい何になりうるのだろう? という根源的な問いを投げているように思えて、それはこの前年に"Berlin Alexanderplatz"を作り、この年にこれと"Lola"と"Lili Marleen" - の3本の映画を作り、世界中の映画祭を駆け回って多忙を極めていた彼の姿とも重なってちょっと複雑なかんじがする。
そこにはそこにカメラを向ける彼の苛立ちのようなものが確かにあるのだが、それが何に対する苛立ちなのか、わからない、というか。
音楽はそれこそトッピングとして乗っけてみただけ、のようなKraftwerkのぴこぴこ。

まさに"Love Will Tear Us Apart" (1979) あたりが聞こえてくるようなひりひりしたかんじ。

Lola (1981)

晩の8:45からの上映はNFT1ていうでっかいスクリーンで、Digital 4Kバージョンでの上映。
これの翌日くらいにNYのMetrographでも"Lola"を上映していて、そっちは35mm版の上映だった。 比べてどうなるもんでもないが、この作品に関しては4Kの勝ちではないか、という気がした。 それくらい4Kのカラーがヴィヴィッドなこと、半端なかった。

冒頭のタイトルバックに映っている白黒写真のおっさんは誰かというと、ドイツ連邦共和国の最初の首相 - Konrad Adenauerで、体を少し傾けて音楽を聴いている様子の彼の上にけばけばカラフルな文字でスタッフやキャストの名前が貼られていく。

まだ復興期にあった戦後ドイツの地方都市で、そこのキャバレーのスター歌手をやっているLola (Barbara Sukowa)は、そこを経営している土建屋のボスSchuckert (Mario Adorf)に囲われて彼との間に子供もいて、でもなんかつまんなくて、そこに町のお役人としてvon Bohm (Armin Mueller-Stahl)が町の整備・再建計画を練り直すべく新たに赴任してきて、Lolaはこいつだわ、って目をつけて仕込みをして彼にアプローチして、純朴で紳士な彼はころりとやられてしまうのだが、すべてはSchuckertとLolaの手の内であることがわかって、この展開であれば通常だと ①von Bohmが絶望して自殺、②von BohmがやけくそになってLolaを殺して自殺、③von Bohmの気が狂ってぜんいん皆殺し、のどれかだと思うのだが、そのどれにもならない。 むしろすべてがきちんと整合してみんなが幸せのまま終わってしまって、こないだ機内でみた"A Monster Calls"vvの樹の化け物呼んでこい! くらいの理不尽さに囚われてしまうのだが、町の復興っていうのはこれくらいエネルギッシュに食い合いするもんなんだ、ていうのか、これが愛なんだよ愛、ていうのか、もうなんでもいいわなんなのあんたたち、ていうのか、どれであっても別によくて、肝心なのは彼らひとりひとりは間違いなくあんなふうにして生きている/生きていた、というその輪郭の強さなのだと思った。

"The Marriage of Maria Braun" (1979)のMaria Braunがすさまじい強さでそこにいて、それこそ爆弾でふっとばされない限りそこにのさばっていた、のと同じくらいのありようで、Lolaもそこにいる。 喜怒哀楽なんて軽く超えたところで彼女は歌っていて、だからその歌声はすばらしいったらないの。

あと、こういった女性の描き方がフェミニズム批評の観点ではどうなのか、という辺り、既にいっぱい議論されているのかもしれないが、今の時点のものを改めて(あるのであれば)読んでみたいかも。 それって80年代初のPost Punkの頃を振り返るような作業にもなっていくはず。

とにかく、画面上の色彩の豊かさ、美しさに圧倒される作品でもあった。 メロドラマ的な陰の要素が美しさを更に際立たせる、というよりもただなんか砂糖細工みたいに美しいの。

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