とにかく渡英して1週間以上が過ぎて、風邪ひいたり口内炎が3つできたりたまんなく寒かったり(いや久々よあんなの)いろいろあったけど、このライブに行けたのであとはもう帰されちゃってもいいや、になった。
まだ英国行きになる確率が半々くらいだった11月末にチケットは取っていて、それくらい真剣だったものだから、それが終わったいま頭のなかは真っ白の大仕事をやり遂げたかんじで、月曜日から会社だなんてありえないどうしよう、くらいになっていた。
取ったのは11日の土曜日の晩ので、土曜日は朝から雪が舞っていてこたつで丸まって寝ていたいくらいの陽気だったのだが、昼にはSOHOで生Isabelle HuppertさんのQ&Aがあって、晩はDagmar Krauseさんの歌があって、とにかくものすごく濃い大変ないちにちになりました。
のだが、場所は当然のことながら初めて行くとこで、これまで地下鉄のZone1の外に出たことなんてないし、かんじとしてはマンハッタンの島を出てブルックリンの奥に行くとかNJのHobokenに行くとか、みたいなもんで、アプリを頼りに7時くらいには小屋に着くようにやってみたのだが、地下鉄から地上鉄に乗り換えるところで見事に間違えてここはどこ? みたいなどこかの駅で20分くらいロスして、なんとかようやくたどり着いて、入り口で手の甲にスタンプ押してもらった(ああ、手の甲にスタンプ押してもらうライブなんて何年ぶりかしら)ときには前方の椅子席はぜんぶ埋まっていた。
サイトには19:30て書いてあったのだが、その時間に始まる気配はこれぽっちもなくて、会場を埋めている大量のおじいさんおばあさんたちが同窓会みたいなノリで互いにスマホをかざして孫の写真を見せあったりしていて、とにかく老人は声がでっかいのでものすごくうるさいの。
場所はカフェなので段差のあるステージがあるわけではなく、楽器が置いてある真ん中奥にメンバーが集合したのが20:40くらい、さあいよいよ、となったとこでAnthony Moore爺がピアノの音がでない、とか言いだしてそこから更に10分、そういう芸なのだろうか、モニターが聞こえない、カズーがどこかにいった、どこかでハウリングしている(アンプをひっぱたくと直る)、ずうっと音が聞こえない/聞こえすぎてうるさい、などの文句を言い続けていて、それに応えるPeter Blegvadさんとのじじい同士のやりとりはほとんどコントのようだった。 このように奏者側ではいろいろあったらしいのだが、我々の耳に届いてきたのは大きすぎず小さすぎずの、すばらしくよい音で、トラブルでAnthonyがぶつぶつ言うたびに客席から「だいじょうぶよ、すごくいい音よ」て声が飛ぶ。
そうしてとにかく1曲目は”A Little Something”で、それはその歌の通りに「ほうらここにLittle Somethingがね.. 」ていう紹介にちょうどよい曲なのだがアンサンブルも歌もびっくりするくらいガタガタで大丈夫かしらこの老人たち、て呆然として、でもそれに続く”Me and Parvati” 〜 “Michelangelo”あたりからSlapp Happyとしか言いようのないスウィングやツイストが(Peter Blegvadの合いの手と共に)宙を漂いはじめるのが確認されて、それはもう、ずうっとほんものを見て聴くことを夢見てきたDagmar Krauseさんの「あの声」として、小柄でぼうぼう白髪にメガネの老婆の喉から鳥が鳴くように(開演前はずっと鳥の声がちゅんちゅんずっと流れていた)溢れてきているのだった。
Faustのふたり - ベースのJean-Hervé PéronさんとドラムスのWerner "Zappi" Diermaierさんのバッキングは素晴らしくて、彼らのトコトコしてて、時に現れるへんてこなうねりがSlapp Happyトリオのどこに行っちゃうんだかわからない、でもブリリアントな鼻歌をちゃんとつなぎとめたり支えたり蓋 - いろんな蓋 - をしたりしていた。 いっぱい練習したかんじもあまりなくて、45年前に一緒にレコーディングした仲、のすばらしさというかおそろしさというか。 このアンサンブルのばらけたかんじを今の子供たちが聴いたら”Lo-fi”とか呼んでしまうのかもしれないが、この5人の音の鳴らす音をそんなふうにいうことはできない。枯れたふうに見えるし枯れているのかもだけど、芯はものすごくぶっとい老巨木のほんの一部の、森のざわめきとして聴こえてくる。
Dagmarさんが70年代初のFactoryの話を始めて、Andy WarholやVelvet Undergroundとはベルリンで交流もあって(ああ、その"Factory"の話か、とPeter)、そのころの出会いにインスパイアされてできた曲です、てはじまったのが"Blue Flower"で、Anthony Mooreがテレキャスターをがじゃがじゃ刻んで、レコードよりもテンポ早めのそれは、確かに初期Velvetsとしか言いようがないヴァイブを湛えて転がっていく。
で、これに続けて"Casablanca Moon"があって、"Charlie 'n Charlie"があって、ぜんたいが程よく酩酊してきたころに、10分間休憩するのでみなさんバーに行って飲み物でもどうぞ、と。
"Just a Conversation"から始まった後半、これに続く"Slow Moon's Rose"からのスローな数曲はよすぎて泣きそうで、こんなに甘くやさしくしみてくる歌声があってよいのか、とべそをかいていると、"King of Straw"では今の合衆国大統領をめぐる政局にはまりすぎていて驚くよね、なんてしらっと真顔で言ったりしている。
ギター x 2の構成で華々しく豪快に鳴った(気がした)"Dawn"のあとで、あ、言うの忘れたけどこれアンコールの1曲目だからね、と言って、続けてさらにかっこよくロックしている(そんな形容が許されてよいのかどうか)ふうに聴こえる"The Drum"で幕は(ないけど)降りた。 それは前半1時間と後半1時間をかけた、約40年間の欧州全域をめぐる旅でもあったの。
80年代初、代々木のEastern Worksとかに通って暗黒面におちていた自分に2017年、冬の英国でSlapp HappyとFaustのライブを見ることになるんだよ、と言ったらそいつはどんな顔をしたのだろうかー。
帰り、体はぼろぼろだったがすんなり帰れた。
2.13.2017
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