18日の土曜日、ターナーを見た後、久々にアテネフランセに行って、お話しをきいた。
2時間あっという間。 おもしろすぎ。
先月出たという(のも知らなかった..)四方田犬彦さんの「テロルと映画」(中公新書)の出版を記念したレクチャー。 丁度このテーマでいろいろ考えるところもあって、行ってみたの。本は会場で売っていたのを買った。
映画という表象システムはテロリズムにどう関わり、テロリズムに対して何ができるのか、スペクタクルとしての映画とテロルはどこでどう切り結ぶのか、といったテーマを映画研究の立場から考察する。
特に両者のスペクタクルを見せる、という特質から切りこんで、「民主主義」に対抗するものとして置かれるテロリズム - ある日ある時突然、全世界に向けて発信されるスペクタクルとしてのテロが、過去の映画でどのように描かれ、扱われてきたのか、それを探っていくことで、例えば加害者の目、被害者の目、歴史がもたらすもの、階層や年齢や性差、地勢がもたらすもの、等々、がだんだんに明らかになって、それはやがて、なんでこんなことか起こってしまうのか、というテロルの起源に向きあうところまでいく。
お話しの進行と共に紹介された映像資料は以下(流された順で);
- Luis Buñuel - “Cet obscur objet du désir” (1977) 「欲望のあいまいな対象」
- Uli Edel - “Der Baader Meinhof Komplex” (2008) 「バーダー・マインホフ 理想の果てに」
- Enison Sinaro “Long Road to Heaven” (2007)
- 吉田 喜重 「煉獄エロイカ」 (1970)
- Marco Bellocchio “Buongiorno, Notte” (2003) 「夜よ、こんにちは」
- Elia Suleiman "Homage by Assassination" (1992)
※配られた紙では”An Hommage to Assassination” てなってたけど..
他に話題として出たのは、Marco Tullio Giordana “La meglio gioventù” (2003) -「輝ける青春」、アサイヤスの「カルロス」、そして勿論、若松孝二、など。
映画は単にスペクタクルを扱うというだけでなく、それがなぜスペクタクルなものとして我々の目と耳に届くのか響くのか、ということまで教えてくれる。もちろんそれは文学でも演劇でも音楽でも可能なことかもしれない、が、大勢のひとに一挙に問答無用に、という訴求力みたいなとこは、やはり抜きんでている気がする。(うんざりするくらいしょーもない − 正確にはしょーもないと感じさせる要素がてんこもりのやつがあるのも、おそらくおなじ性質によるものではないか)
こうして映画に表象されたスペクタクル、スペクタクルとして描かれたテロリズムは、ものすごくいろんなことを考えさせてくれることに改めてびっくりする。 そこにはあらゆる感情 - 怒り、悲しみ、後悔、絶望、諦め、祈り - があり、そしてなにより、多くの人が死ぬ。 さっきまで生きていた人が死ぬ、それがもたらす喪失、欠落、不在、穴、残されたもの、その重さの生々しさ、リアルさとはなんなのか、てよく考える。
本では第一章に置かれているElia Suleimanの作品 - 特にElla Shohatとのやりとり - が最後に紹介されて、起源に立ち戻るかんじ。 なにが、誰がテロルを、テロリストをそう名付け、そう呼ぶのかと。
そしてわたしは、いったい、誰なんだ、と。
これ、画質はよくないけど、You Tubeにもあがっているので見てみませう。
お話しが終って、本を買ったひとにサインしますから、になって解散状態になったところで、客席にいた小中陽太郎さんが、本の最後のほうにある「哀悼的想起」 - Eingedenken について質問をしたの。
哀悼的想起はベンヤミンが「パサージュ論」で提示した(毎度おなじみ)なぞなぞ概念で、完結してしまった歴史を、あるいは完結していない歴史を、如何に修復し、社会として記憶し哀悼するのか、ていうことについて、そういうことの必要性を語っている。
で、本には、映画の役割は哀悼的想起を組織することだ、と明確に書かれていて、おうちに帰って本のそこのとこを読んでああそういうことかー、と思った。 そうだよね。 うん。
この国の一部の政治家達がある時代の日本の所業、他の国では決して終っても決着してもいない過去のことをなかったことにしたがっている(哀悼も想起もなし)、そしてそのおなじ連中が憲法を無視して他の国に軍隊を送れるようにしたがっている - そんな戦後から70年目の夏にこの本が出たのは偶然でもなんでもないのだな、と。
だから明日も行くんだ。
7.23.2015
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