7.04.2015

[film] Clouds of Sils Maria (2014)

28日の午前10時、フランス映画祭の5本目、日曜日の1本目。
こればっかしは、なんとしてもなにがなんでも見たかったの。

そして、ほんとにすばらしかった。

大女優Maria Enders (Juliette Binoche)とそのアシスタントValentine (Kristen Stewart)がスイスの奥 - シルスマリアに電車で向かっている。ふたりは老劇作家 - Wilhelm Melchiorの表彰式に向かうところで、でも突然彼の死(後で自死であることがわかる)が伝えられて表彰式は追悼式になってしまう。 そこで彼女は若い演出家と会い、Wilhelm Melchiorの戯曲 - “Maloja Snake”に出てくれないか、と言われる。 この作品はMariaが10代で主演し、その役を演じることを通して彼女は女優になった大事な作品で、でもオファーされた役は若い主人公の反対側で追い詰められて自殺する年増のほうで、迷いながらも彼女はやることにして、劇作家の遺した山荘でMariaとValentineはリハーサルを始める。

劇のタイトルである“Maloja Snake”は、シルス・マリアの雲が山々を越えて蛇のように渡って覆いつくす稀に見ることのできる現象のことで、劇作家はこれを戯曲のタイトルにしたのだ、という。

老作家がいなくなり、老作家の妻は彼と暮らした家には住みたくないとそこを出ていき、そこに老女優と秘書が移り住んでふたりで芝居の稽古をし、やがて秘書は消えて、若くて怖いもの知らずの新進女優 (Chloë Grace Moretz)が現れる。 玉突きのようにドミノのように、くねりながら進んでいく蛇のように。

彼女が怖れ困惑し硬直し直視できないのは死で、それは舞台上での役柄としての死以上に、自身をひとり置き去りにする未知の、しかし実世界にあるリアルな死で、自分を導いた作家は亡くなり、夫とは離婚調停中で、秘書にも去られ、自分のかつてのポジションにあるのはハリウッドでスーパーヒーローを演じている小娘で、こいつは自分が付き合っている作家の妻を自殺に追い込んでいたりする。
シルスマリアの雲のように山を越えて谷を渡ってなだれ込んでくる白い不可視の死。

「夏時間の庭」(2008) にあったのと同じような時の移ろいと共にへこんだり欠けたり浮かんだり、それが「雲」で、その下で瞬きながらその在り処とか不在とかを伝える「家」があって、そのふたつの間で人は迷って伸び縮みして苦しんで、でも雲は流れてくる、そういうものだから。

「夏時間…」のエンディングで流れたThe Incredible String Bandの"Little Cloud"とこの作品のタイトルは雲でつながっているの。 あの雲は子供たちの夢を乗せて向こうに飛んでいく雲、こっちのは老人の背後にすうっと忍びよってくる雲、だけど。

老女優がなにかに目醒める、というよりは自分の雲とか朝靄とか家とか、そのありようを知る、そういう気づきとか予感が、Olivier Assayasの映画のエンディングには必ずあるの - “Boarding Gate” (2007) にしても”Clean” (2004)にしても。 女性映画として素敵ったらない。
だからねえ、女優魂とかそういう話とはぜんぜん関係ないの →  改めて残念な邦題…

あと、誰もが言っているJuliette BinocheとKristen Stewartのやりとりの素晴らしさね。
Kristen Stewartさんて、ほんとにすごいんだから、ていうのをみんな思い知るがいいんだ。

上映後のトークで監督は、(音楽の使い方について)今度のはバロックで行ったとか語っていて、そこのとこをまだ考えているのだが、でもAssayasの映画ってずっとバロックだと思っていたんだけどなー。

ぜったいもう一回みる。

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