5.08.2013

[film] Stemple Pass (2012)

5月2日の木曜日の晩、イメージフォーラムで見ました。
毎年この季節になるとそういえば、というかんじでイメージフォーラム・フェスティバルがあったのを思いだし、James Benningが見れるなら、と喜んで出かける。

辺鄙で半端なところにあるメイン会場のとっても座りにくい椅子で見るよりは、と渋谷の会場のほうにした。

変な作品だった。 いつものことながら。

70年代後半から90年代にかけて「ユナボマー」として知られたTed Kaczynskiが70年代初から住み続けた山小屋(作品のタイトルはそこに向かうモンタナの道路から)をカリフォルニアに再現し(映像上は屋根の一部がみえるだけ)、そいつを含む森とか山とかの光景を固定カメラで撮っただけ。 順番は春と秋と冬と夏、各季節30分くらいづつで、ぜんぶで4ショット、計123分。

各季節の冒頭には彼の書いた日記とかメモとか声明文がJames Benning自身の声で読みあげられる。 でもその朗読(10分くらい?)がおわると、あとは無音、森の間に響く鳥の声とか雨の音とかヘリの音、そういうのしかなくなって、画面はまーったく動かないので、うーむ、と。 
鳥の声とおなじくらいいびきがいっぱい聞こえた。

春に読みあげられる70年代の、まだ山小屋生活を始めたばかりの頃のジャーナルは、リスやヤマアラシを撃って食べて、自給自足をはじめたころのもので、まだヒトへの嫌悪はそんなにない。 雲が元気に動いていく映像は後半、うるさかった鳥の声がぱたりと止んで、雨がさーっと降ってくる。

秋は、70年代後半、爆弾を作って路に置いたり届けたり、じんわりとヒトを憎み始めた時期のメモが読みあげられる。 小屋の煙突から煙がもくもく出ていて、鳥の声がうるさい。

冬は、85年に数字で暗号化され、2011年に解読されたメモが朗読される。
画面は雪で白くて、後半は雪みたいなみぞれみたいのが降ってくる。

最後の夏は、夕陽でオレンジ色に染まる森から始まり、投獄後に書かれた犯行声明文、獄中インタビューが読みあげられ、画面全体が夕闇にゆっくり沈んでいって、おわる。

エンドロールで、爆弾の犠牲となった3名の名前と、カジンスキーの文章を許可なく引用していることがぼそっと出る。

ある年のある季節の切りとられた無音の30分 x 4、という長さ。言葉で埋めてもじゅうぶんにおつりがくる余白。 このひとはここで、20年以上ひたすらヒトを、技術社会を嫌い、呪いながらこの景色を見つめ、この音を聞き、自給自足をしながらたったひとりで爆弾を作り続けていたのだなあ、と。

他方で、ここに映しだされている映像 - 森も山小屋もすべてはフェイクで、声も本人ではないし、読みあげられる文章も無許可なので本物かどうかはわからない、それでも漂ってくる禍々しさ、これって一体なんなのか、と。

映画のなかで読み上げられたテキストの日本語訳はここに。

http://www.imageforum.co.jp/sptext.pdf

でも、字幕とはちょっとだけ違うの。
字幕で「ワピチ」ってあって、なんだろと思ってあとで調べたらアメリカアカシカとかエルクとかだった。 このテキストでは「大鹿」てある。

ほんとどうでもいいことですね。

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